僕の生きる意味は君だよ、と彼は言った。
なんの考える素振りも見せず、真っ直ぐ見つめる瞳に私はため息をつく。
「そんなの知ってるから。もっと面白い答え期待
してたのに、つまんないの。」
「ははっ、ひどいな~。
今のは喜んでくれるところじゃないか?」
口ではガッカリしながらも私の頬をつつく彼は何処か愉しげで。
怒った顔も可愛いね、なんて気障ったらしい台詞まで寄越すのだから呆れたものだ。
「…空気が甘ったるい。」
「うん、丁度焼き上がったみたいだ。さすが、鼻が
いいね。」
そういうことじゃない、って分かってるくせに。
さっきといい、この男はすぐ人をからかう節がある。
むくれる私の頭をひと撫でしてキッチンに向かう背中を忌々しげに眺めていると、やがて部屋中が幸せな香りに包まれた。
「はい、お待たせ。君の大好きな俺特製アップルパ
イ、完成だよ。」
4/28/2023, 6:19:24 AM