タカナ

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高校生の頃、バス停で国語の先生と一緒になった事がある。全然話した事ないから適当に無視しようと思ったら、向こうから声をかけてくれた。暑いね、なんて話しているうちに、暑いと〇〇食べたくなるよね、という話になった。
冷やし中華や、素麺など暑い時に食べたくなる食べ物が出尽くした時に、昨日食べた冷奴が浮かんだ。その時、別に好きじゃないけど
「冷奴食べたくなりますよね。」
と言ってしまった。昨日の冷奴の状態を浮かべながら
「上にネギとか、茗荷とかかけて食べるとさらに美味しいですよね」
と言った。そしたら先生も乗ってきて、
「茗荷はかけた事なかったなぁ、キムチとかは結構好きでかけるけどね」
なんてことを言ってくれた。
多分先生も冷奴の事をそこまで好きじゃないと思う。今日の夕飯は冷奴だよと言われて踊った夜はないし、こっそり起きて茗荷とかネギを刻んで冷奴を食べたこともない。
でもその時の二人の会話では冷奴こそ夏の食べ物で、素麺や冷やし中華よりも話題を広げて話していた。きっと『冷奴いいよね』の呪いにかかってしまったのだと思う。冷奴をいいという事で、まるで夏をわかっているかのような錯覚が生まれるのだ。また、少なくとも私は冷奴のおいしさがわかる自分に酔っていた。
それから『冷奴いいよね』の呪いから醒める事なく、終点で先生と別れた。
きっとまた、誰かとの会話で冷奴の話題が出る度に『冷奴いいよね』の呪いにかかり続けると思う。そして次は冷奴に生姜を乗せて食べるのがいいと言うのだ。別に好きじゃないのに。

3/25/2024, 2:44:34 PM