よどみ

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真夜中


 おやすみなさいと言ったのは何時間前のことか。23時前には夢の世界へと旅立ったであろう友達とのトークを眺めながら、ぼんやりとまろやかな布団のなかで微睡んでいた。ただ肉体がどこかに放たれたようで、意識だけが、ぽつねんとそこにあった。壁の染みを見ることさえできないような靄がかった脳を、少しでも起こさないように、健気に画面の光量を絞っている。眠気特有のガンガンとした頭痛が襲い掛かってきて、このからだ、意識、ぜんぶを包み込まれているようだった。寝なければ。明日は休みだけれど、そう、健全な人間として、寝なければならない。おそらく。
 ずっとなにか思い出して、そのたびに幸せと絶望をまぜこぜにしたような感情に駆られて、余計に目が覚めてしまう。相手から見れば取るに足りないような、物語にはあまりに陳腐な日常が、あまりにも甘やかで幸せたらしめる出来事のように見えていた。たとえば「そうだね」と肯定されるだけで嬉しくて堪らなかったし、「そう思わない」と否定されるだけでこの世のすべてに絶望した。けれども、ずっと友達であり続けている。夢みたいな思い出だけをバスタブに溜めて、そこの中にざぶんと浸かってしまえたらいいんだと思う。でも溢れてしまうから、それは名案ではないかもしれない。
 目が冴えてきた。ベッドサイドのミニテーブルに置き去りにした箱を手にとって、シートからひとつカプセルを取り出す。転がしたジュースで流し込む。いい夢が見れそうだと言い聞かせる。天井の染みは、どことなく、ハートのかたちをしていた。あのとき揃いで買った、ストラップに似ていた。

5/17/2024, 10:35:38 AM