NoName

Open App

大切なもの



母の手製の指ぬき

母が少しずつ
おかしくなり
指ぬきがないと言い出し
私に、あなたが盗んだでしょと
疑いをかけられた。

お金でも宝石でもなく
手芸の指ぬき。

実の母親に盗んだでしょと言われて
私は、当然怒った。
悲しかった。

認知症の始まりだった母の症状。

認知症は、人格が
壊れて行くと実の娘も
他人扱いになり攻撃する病。

亡くなって、指ぬきが10個
私の手元に残された。

指ぬきは、加賀の指ぬきという
絹糸を色とりどり使って
刺繍のように縫う美しい手芸だ。

母が正常だったころ
コツコツ縫い仕上げていた。


泥棒扱いされた嫌な思い出なのに
美しい色合いを見て眺めていると
母がまだちゃんと母として正常だった
姿が脳裏をよぎり泣きたくなる。


母の指ぬき。
大切なものなのかわからない。
だけど捨てられない。




4/2/2023, 3:25:30 PM