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ある夜、私は群れをはぐれた一匹のトビウオであった。月光を背に受け、輝く水面を弾丸の如く飛び跳ねることに余念がなかった。ふと水中に目を向けると、蛸やナマコがうじゃうじゃとしていたので、なんだか気味が悪くなって力いっぱいに跳ねた。すると、おかしい。水面に落下するはずの体が、なぜだか柔らかいものの上にある。海に浮かぶ鯨の死体の上にでも落ちたのかもしれない。トビウオといっても所詮は一介の魚類である。水がなければ生きては行かれない。仕方がないのでぴちぴちと跳ねている。東の空が白みだした頃、一羽の鴎が飛んできて言った。
「おい、そこにいる死にかけの飛魚、俺の朝飯にならないか?その代わりに、最期にお前が見たこともない高い空を見せてやるよ。」
私は言った。
「ぜひとも。」
  

ある朝、私は眠りから覚めた人間であった。涎を拭い、起き上がったはいいものの、無性に釈然としない。ほんの数分前まで見ていた夢は既に覚えていないが、一番いい場面を見逃した気がする。時計を見ると、あと十五分ほどは眠れそうである。ほとんど諦めながらも、一縷の望みに賭けて、再び目を閉じた。


#夢が醒める前に

3/20/2026, 4:54:12 PM