モンシロチョウ

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だだっ広い部屋にとんでもお化けサイズのキャベツが1つ。そしてその右側にはウニ。
そこに、開いた窓から1匹のモンシロチョウがやってきた。
お互いの存在には気づいていない。
ウニはキャベツをショリショリ食べ進める。
モンシロチョウは柔らかな葉っぱに卵をぽこぽこ産み付ける。
ショリショリぽこぽこショリショリぽこぽこ。
ある日100個の卵が一斉に孵った。
もにもにうぞうぞと青虫がキャベツを探索する。
一面穴だらけにしながら青虫がキャベツを食べ進める。何匹かが、ウニと出会った。
ウニは目が悪かったために、キャベツと青虫の色の境目が分からずそのまま食べてしまった。ショリもにむちょア゚ー。
キャベツ掘削作業に従事する青虫たちは、次々とウニにもにむちょア゚ーされた。かすかな断末魔に気付かぬまま、生き残りはどんどん丸く太く大きくなった。
そのうちウニの方も、「キャベツのもにっとした部分は食べづらいし変な味だから、パリパリのところを探そう」と思い始めた。
穴だらけキャベツの今の住人は、1匹のウニと20匹の青虫。
ところでウニは最近疑問に思っていた。
キャベツのもにむちょっとした部分に出会って以来、ねちょっとした茶色の塊にも遭遇するようになったのだ。しかも日に日に割合が増える。
茶色は美味しくないから緑を食べようとすると、5回に1回は例のもにむちょだったりする。しかも最近のもにむちょは存在感が増した上によく動く。
何だか分からないけれど、自分の素敵なキャベツに不愉快な変化が起きていることだけはよく分かった。
快適なキャベツライフを取り返すには、あのもにむちょを取り除く他ないのかもしれない。とウニは思った。
むくむくもにっと大きくなった1匹の青虫が、ウニの前に現れた。ウニは口でその感触を確かめると、勢いを付けて前進した。ゆっくり、ざっしゅり、青虫がウニのトゲに刺さった。
ついでに近くにいたもう1匹の青虫も刺さった。
今日は飲み込まれないのでいつもより長く青虫の最期の声が響いた。ア゚ーーーーー。
ウニは体を振ってもにむちょを落とそうとしたが、却って深く刺さるばかりだった。
刺した部分がべちょっとするし、何よりもにもにとした物体がずっと体にくっついて離れないのは不快だったので、ウニは突き刺し作戦をやめた。
青虫2匹が刺さったまま、ウニはキャベツを食べ進めた。
それから何日かして、ウニは初めての感触に出会う。キャベツのみずみずしいショリショリではなく、かさかさパリパリだった。
ウニはとりあえず食べてみた。
外側は食べられないことはないが、特別美味しい訳でもなかった。外側、と評したのは、パリパリを食べると中にゆるモサっとした別の物体があったからだ。ゆるモサは口当たりになんとも言えぬ気持ち悪さがあり、もにむちょに似た風味と水分を感じた。動き回る様子はないが、こいつももにむちょの仲間かもしれない、と思ったのでカサカサも見つけ次第解体して食べた。17個のカサカサを解体したところで、ウニは疲れと食べすぎで仰向けになって寝てしまった。
その晩、一匹のモンシロチョウが、サナギから出てきた。
お世話になったキャベツの周りを飛ぶうちに、黒いトゲトゲの花らしきものを発見した。茎は無さそうだが、両サイドに2つ緑の葉っぱらしき物があるので多分花だ。
トゲトゲの真ん中にある5つの白い花弁は呼吸でもしているようにくぱくぱと動いていた。大変身を終えたばかりのモンシロチョウはお腹がペコペコだったのであまり気にせず、花弁が開いたタイミングでその細長い口を一気に奥まで差し込んだ。
驚いたのはウニである。気持ちよく寝ていたら突然何かが入ってきたのだ。口に、とかそういう次元じゃない。口を経由して体に何かが侵入して来た感覚だった。急いで口を閉じようとした瞬間、ずぞぞぞっと体の中から凄まじい音がして、意識が飛んだ。ウニの最期であった。
モンシロチョウは不思議に思った。
渾身の勢いで吸ったのに蜜が出てこない。
代わりに何か限りなく細長いゴムチューブのようなものが切れ目なくズルズルと出てくる。一息で10cmほどが出てきた。このまま吸い続けたらこのチューブ経由で蜜が出てくるかもしれないと思い、モンシロチョウはもう一息吸い直した。更に15cmほどチューブが出てきた。更にもう一息吸ってみたが、それ以上チューブは出てこず、蜜も出なかった。強いて言えばちょっと苦い半固形物混じりの汁が流れてくるくらいだ。
これ以上吸ってもいい事は起きないと判断したので、モンシロチョウはうっすいほっそいゴムチューブから口を離した。
初めての食事が胃液で溶けゆく自分の兄弟だったとは知らないまま、開いた窓からモンシロチョウは花を探して飛び立った。
こうして部屋は、穴だらけのお化けキャベツ1つと、2匹の青虫が刺さったまま内臓が外側に引きずり出されて絶命したウニだけになったとさ。

5/10/2024, 6:52:10 PM