平手打ちと女の子
「ねぇ、ビンタして欲しい酔っ払いなんだけどさ。是非やって欲しいのだけど、大丈夫?」
時間は深夜0時を過ぎた頃。人々はアルコールに脳を侵され、欲望渦巻く街と化した世界。人生で初めてとなる質問をしてみた。
「いいですよ。私、ビンタ得意なので!」
そう即答されて、エレベーターに案内された事も人生で初めての出来事だった。
声をかけた相手は、ビンタをするなんて思えないような華奢な見た目をした女の子であった。背は小さく、ビンタをしたら怪我でもしてしまうのではないかと思えるような小さく白い腕。有名な造形師が作り出した可憐なドールのように整った顔立ちをしていて、虫1匹も殺めた事がないのでは無いかと思えるくらい澄んだ綺麗な眼をしていた。
そして何よりビンタなんて出来ないだろって思えたことがあった。それは驚くくらいの人見知りで、声をかけた時は一切目を合わせてくれなかった。そんな彼女の口から出た「得意技」。これから始まる出来事に期待しか生まれなかった。
じゃあビンタをするね。急にそんな事が起きるわけでもなく、彼女とは1杯のグラスを重ねる所から始まった。自称ドSでもあるこの俺の顔を叩く女の子がどんな人物なのかを知りたかったのだ。
某アニメキャラと同じ名前なんだなという情報から始まったものの、それ以上彼女の情報を深堀することはなかなか出来ずにいた。あぁ自分のトーク力の無さ、なんと腑抜けたことか。様々な質問をするもその子は人見知りを最大限に発揮しており、にこにこっとこちらの話に笑顔を見せ頷いてくれるばかり。そんな姿が可愛かったのだが、俺が求めるものは違った。
「私、ビンタ得意。」あの言葉には絶対彼女の真実が隠れていると思ったのだ。見た目に反して、彼女は確実に面白い。知らない笑いのセンスを持っていると踏んだのだ。だからこそ、俺は悪になることにした。
こんな時、自分の性格を恨みたくなる。本当はいい人でいたい、好かれたい、クールな人物と思われたいと思っているのに、出る言葉は意地悪な事ばかりだ。人間としての評価を下げてまで、相手の本質を見たくなってしまうのだ。これは何という性格と言えばいいのか分からないが、損をしてることは確かなんだよな。
しかし、この性格が功を奏する時もある。やっぱり彼女は面白かった。短い言葉であるが、人を毒づくワードセンス。小さなボケにも突っ込める漫才センス。考える事や言葉にするのは苦手と言うもの、思い付きもしないような表現力と自由な発想力から出るトーク力。これは将来光り輝く原石を見つけたと思えた。そしてその頭の良さに加えて、序盤でも話した容姿の良さ。どう考えてもどう見ても可愛い見た目。そして、1番の魅力とも言える人間性の高さ。毒づく言葉は出るものの、慈愛、純真、自己分析力。
7/25/2024, 2:37:58 AM