「はじめまして」
____卵焼き、はじめまして
そこの居酒屋の玄関には、ちょっと変わったのぼり旗が立てかけられていた。
中へ入ると、ほぼ満席だった。そしてなぜか見る人全てが、小さな丸皿に乗った卵焼きを食べている。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、では卵焼きを…」
興味本位で卵焼きを頼んだ。社会人の俺にだって卵焼きを作れんことはないのだが、どうしても気になってしまう。
「かしこまりました。料理人の手が少々遅いのですが、ご了承ください」
俺はもう一つ、メインのもやしの焼肉定食を頼んだ。
品数は定食の方が多いのに、先に来たのは定食だった。
やはり人気メニューなのか…。
静かに食べ進めていると、居酒屋のマークが入ったエプロンをつける幼き少年が、きびきびと歩いてきて、俺の席で止まった。
左胸の名札には「春休み限定 卵焼き専門 (ただいま練習中)」と赤い文字で書かれている。
「おまたせしました。ぼくのたまごやきです」
少年の握る皿には、卵焼きが乗せられていた。
しかもうっすらと焦げ目がついて、部分が崩れた卵焼き。ありがとう、と言ってもらった。
箸でつついて一口食べてみた。あまじょっぱい出汁の味が卵に凝縮されていて、結構うまかった。
あとは、なぜがこんにゃくが具として入っていた。
______これはこれは、はじめましてだなあ。
4/1/2025, 10:10:09 PM