水緒きざり

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ある日突然、
「人々の視線が目に見えるようになる現象」が
発生した。

二つの瞳孔から出る、ピンと張った糸のような
細い光の筋。これが「視線」だった。

愛し合う恋人たちは、ゆらゆら光るピンク色の太い光で
互いの顔を照らし合っている。
睨みつけるような鋭い視線からはチリチリと火花のようなものが走っていた。
ぼんやりと一点を眺めると、
視線は「もや」のようなものに変わっていった。
しかし目をパッと見開くと、その「もや」は視線の
軌道を描くようにさっと集まってきた。

あらゆる視線が見えるようになったことで、
最初は世界中が困惑と混乱に満ちていたが、
やがてそれは日常になり、誰も他人からの視線を
気にしなくなった。

いや、
「他人は自分が思っているよりも
自分のことなど見てもいないし気にしてもいない」
ということに人々は気づいたのだ。
もちろん、誰の視線の先にも、私はいないのだ。

7/19/2024, 12:57:04 PM