狼星

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テーマ:冬になったら #5

私は小さい頃、冬に祖父母の家によく遊びに行った。
そこに行くと決まって近所の男の子と一緒に遊ぶ。
その子は私と同じくらいの年で、小さい頃の私達は同じくらいの身長だった。
その子は祖父母の住む街をよく知っていて、色んなところに案内してくれた。私はその子と遊ぶことが好きで。私の知らない場所に連れて行ってくれることが、当時の私にとって何よりも楽しかった。

数年後祖父母が亡くなり、その街へ行くこともなくなることになった。私はその子に会えなくなったことが悲しくて、
「なんで来れないの? なんで?」
私はその日、家を飛び出した。冬で寒い中、ジャンパーだけを羽織って近くの公園に行くと、その子がいた。
「どうしたの?」
その子は涙でグシャグシャになった私の顔を見て心配そうに言った。
「もう、遊べないかも、しれないの」
私はつっかえながらいった。その子は私を見て
「そっか…」
残念そうに言ったけど、泣かなかった。
「じゃあさ、僕が一番好きな場所教えてあげる」
そう言って私の手を引いた。その子の足取りは軽かった。

「着いたー!」
一本の木の生えた小さな神社のようなところだった。
「見て、ここ!」
私は、その子が指差す方向を見た。すると
「わぁー……、きれい…」
そこには沈みかけた夕日が海に反射している神秘的な景色があった。空には赤く染まった雲と、暗くなりつつある空。そして冷たい冬の風が私の頬をそっと撫でる。
「ここは僕たちだけの秘密の場所。僕はいつでもここにいるから。いつでも来ていいよ」
そして人差し指を立て、続けていった。
「冬になったら、また会いに来て」

この街も随分変わってしまったな。
私は懐かしの街に帰ってきた。この街に来るのは20年ぶりだろうか…。20年も年を取れば私も、街も変わるのだなと感じる。
そういえば、小さい頃よく遊んでいた男の子がいたなと思い出した。もうここに来れないってなったとき、すごく泣いてその子に励ましてもらったんだっけ…。
また、会いたいな。
そんなことを思っているとその子が最後言っていた言葉を思い出した。
ーー冬になったら、また会いに来て
そういえばあの約束まだ果たせてないな…。私はそう思った。でも、もうあれから20年経っているとなるとあの場所に行ってもその子はいないだろうな。
そう思いながらも一度行ってみようと足を動かした。

子供の頃は軽々登っていた山の急斜面が今ではキツイ。でも当時を思い出し、懐かしいなと思いながら登っているからかそう苦に感じなかった。
「着いたー」
とは言っても登り終わったときには息は上がっているし、足は痛くなった。歳をとったな…と感じる。
「あれ?」
そこには、先客がいた。小さな先客だ。その後ろ姿には見覚えがあった。でも、そんなこと…
「来てくれたんだ」
その子は私を知っていた。振り向かず小さな背中を向けているその子。でも、その声には聞き覚えがあった。
「20年、経ったんだよ?」
私はそういってその子に話しかける。
「もうそんなに経ったんだ」
その子は答える。やっぱり、この子は…
「私……、遅くなっちゃった?」
「ううん。来てくれて嬉しいよ」
そう言って振り返った彼は、小さい頃見た彼の姿そのものだった。
「どうして…」
「僕ね、もういないんだ」
小さい彼の影が長く伸びる。夕日が逆光となり彼の顔がよく見えない。
「来てくれてよかった。また会えた」
そう言って彼が顔を上げた。
「来てくれてありがとう」
彼がそう言うと、夕日が落ちた。それとともに彼も消えた。

彼が何者だったのか、私にはわからない。
でも、今でもあの場所に行くと彼に会えるんじゃないか、またあの時みたいにひょっこりと出てきて私を待っているんじゃないか、そう思った。
でも、彼があの日から私の前に現れることはなかった。
今年こそ会えるだろうか、
……もう少しで冬になる。

11/17/2022, 12:32:53 PM