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私はこの春からこの高校の養護教諭として新卒採用された。いわゆる保健室の先生だ。体調の悪い生徒はもちろん、教室に居場所のない生徒に寄り添える養護教諭になりたいと思って一生懸命学んできた。
その初出勤日。
朝の職員会議でのご挨拶をすませ、いよいよ私の場となる保健室のドアを開けた、
荷物を下ろし、白衣を羽織り気合いをいれる。

窓をあけて部屋の空気の入れかえをすると、ベッドを囲むカーテンが揺れた。カーテンはなぜか閉められたままだったのでザッと開け放つと、下着だけの男性がこちらに背を向けて寝ているので心臓が止まるかと思った。咄嗟に「失礼しました」と言ってカーテンを閉めたものの、冷静になり部活か何かで体調を崩したのかもしれない生徒なのだから対応しなければならないことに気付いた。

「入りますよ、私、新任の養護教諭なの。体調ひどく悪い?ここが痛いとかありますか?」

「あー、二日酔いで頭痛いっす。お…う、は、吐く!」
そう答えると生徒はベッドから飛び起きて、混乱している私を押しのけ保健室内の流しで吐きはじめた。
二日酔い?

フリーズしている場合ではない。生徒の裸の背中にさわることに躊躇している場合でもない。
「ごめんね、さわりますね」そう言ってまだ吐いている生徒の背中をさすった。
「少し喋れる?何年何組の誰君?担任の先生は?」

生徒が口をすすいだので、私はとりあえず自分のハンカチをわたした。「これ先生の匂い?先生の手冷たくて気持ちよかった。それにその白衣の中ちょっとエロい」
白衣の中?私は自分の服を見下ろした。胸のボタンが2つ外れていたのを慌てて止め直した。

その間にズボンをはき、Tシャツを身につけた生徒が言った。
「2年D組担任の佐藤です。ヨロシク。」
「た、担任?!」
私は気絶した。

この出会いが私の人生を変えることになるとは、この時の私は知るよしもなかった。


お題「岐路」

6/8/2024, 11:14:41 PM