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溢れる気持ち



本屋で911同時多発テロで家族を
亡くした人が出版した本を立ち読みした。

突然大切な人が目の前から消え
いつでも伝えられると思っていた
言葉がもう伝えられない悲しみ。

悲しみと後悔が溢れた本だった。

読者に呼びかける作者のメッセージは、
生きているうちにあなたの大切な人に
きちんと思いを伝えてほしい、だった。

翌日、末期ガンの妹の病床を見舞った時
あの本のことが浮かび、もう私の声など
聞こえない昏睡の妹に耳元に話しかけた。

15歳の息子のこと。
高齢の母のこと。
後のこと全部私が引き受けるから。
大丈夫だから。
ありがとう。ありがとう。
妹でいてくれてありがとう。

これから天国に旅立つ妹にありったけの
浮かぶ言葉を繰り返した。
妹が心配なく安心して旅立てるように。

私のような頼りない姉じゃ
ちっとも大丈夫なんかじゃないのに。


それでも、私の中から溢れる思いは、
止まらない。
言葉をかけ続けた。

妹が最後の力を振り絞って
うっすら目をあけて私をみた。

私の言葉は、届いた。

良かった。

静かに目をおろし妹は、天に召された。

溢れた思いをたくさん、言葉にして
伝えた時、最後は、感謝の言葉だった。

溢れたのは、ありがとうだった。

2/6/2023, 3:14:52 AM