もう一つの物語
「ただいま」
「おかえりー」
「あ、いい匂い、何これ?」
「でしょ?今日はあなたの好きなお鍋にしたよ、早く食べよう」
「その前に、はいコレ」
「またたこ焼き??飽きたってば」
「子ブタちゃんは文句が多いなあ」
「ブヒー」
今の仕事につかなければ、あの頃のように心穏やかな日々を送れたのかな。結婚して子供も出来て、私と彼のもう一つの物語を紡いでいけたかもしれない。
「真面目に職安通えばよかった」
ため息、なんて嘘。彼と出会えたのは今の仕事のおかげだから。
同期の彼はライバルから始まり、仲のいい友達になった。そこから恋人になるのに時間はかからなかった。
「はぁ…ちょっとやられちゃったな」
傷口を押さえる。
今回のターゲットは超優良企業トップに君臨する敏腕社長。しかし、あらゆる悪事に手を染める裏の顔を持つ男だ。
あの人が命懸けで手に入れたデータは全て頭に入れた。
ただ私が行く直前、少数だが精鋭の護衛を増やしたことはそこになかった。
「平気平気。こんなのかすり傷よ」
任務は完了。
後は彼の待っている我が家へ帰るだけ。
「ここまで離れたらいいかな」
味方も近くまで来ているらしい、少し休もう。
暗闇の一角に座り込む。冷たいアスファルトが心地いい。
疲れた。帰ったら彼に抱きつこう!思いっきり甘えてたくさんキスもして、いっぱい愛してもらおう。早く会いたい。
任務完了祝いの意味も込めて晩酌もしないとね。
なんだか今日は映画が見たい気分。とびっきり甘々の恋愛映画。彼の嫌そうな顔が思い浮かぶけど、今日はわがまま聞いてもらおう。
飲みながら映画鑑賞だ。
とくれば、晩酌のお供が必要ね。
「たこ焼き…買って帰ろ…ぅ」
もう少し、もう少しだけ、休んだら…ね…
end
10/29/2024, 10:47:11 AM