【あの日の温もり】
あの日の母の温もりがまだ私を縛り付けて離さない。
あの時母の温もりさえ知らなかったら。
あの日に母に抱きしめられることがなければ。
今苦しむこともなかった。
母は私に冷たい態度をとる人だった。
泣けば怒鳴られ、笑えば泣かれ、話しかければ睨まれる。
そんな生活を送っていた。
そんな生活にも慣れた頃、私が12歳になった年だった。
母がケーキを買って帰ってきて、母に抱きしめられた。なぜ抱きしめられたのかわからなかった。だが母は「ごめん、ごめんね。こんな母親でごめんね」と言い続けていた。
その数日後母は失踪した。噂では仕事で出会った客の男と駆け落ちしたそうだ。
今どこで何をしているかは見当がつかない。
それなのに私は母に抱きしめられたあの日から母の温もりを忘れられずにいる。
会えないとわかっていても無性にあの温もりを求めてしまう。
あぁ、こんなことならあんな温もりなんて知りたくなかった。教えてほしくなんてなかった。
いっそのことあの日母の手で死んでしまいたかった。
あいしてるよ、この世で一番大嫌いなまま
2/28/2025, 3:26:35 PM