August.

Open App

〈放課後〉


放課後担任から呼び出された。
2限目の現国の授業が終わった後、名前を呼ばれ、教壇に向かった私に「放課後、教室に待ってて」と言われた。そして、私の有無を聞かず、教室を出て行った。
私は返事くらいさせてよ、もし私が先約があったらどうするつもりなの?と首を傾げつつ、少し苛立ちを感じていた。
私には決定権はないと言われてるようで、私の反骨精神が反応してしまうが、そういった感情は無駄だと世間知らずの私でもわかるので、取り敢えず6限が終わるまで大人しく授業を受けた。
まぁ、受けたと言っても、受けているように見えるだけと言った方が良いだろう。実際授業は退屈だし、私は人より要領が良いのか、地頭が良いのか、教科書を読んだだけで大抵のことは理解できる。それに、授業は退屈だと言いつつも、毎日予習は欠かさずしている。きっと、その効果もあるだろう。
先に知っていた方が後々楽になるし、テストで良い点が取れるということを知ってるからだ。
別に勉強が好きという訳ではない。ただ、やるべきことを淡々とこなしていき、自分に合う勉強法で勉強をすれば、評定も上げてくれる。
大学受験を2年後に控えてるが今からこつこつ実績を作れば、年内に入試が終わらせることも不可能ではない。嫌なことはさっさと終わらせたい性分なので、結局は入試目当てでもある。
やりたくないことでも、やるからにはいい結果を出したいという私のクソ真面目が発動してしまう。

結局、担任からの一方的な予定をすっぽかすことだってできたのに、私は自分の席に座って教壇で他の生徒の対応をしている担任を見ていた。
そっちから言い出したくせに、待たせるのか。
担任が中々こっちに来れないのは仕方がないことなのに、私はまた少しの苛立ちを感じていた。
あと5分したら帰る。
私はを11を指してる長針を見てそう決めた。
私だって予定はあるのだ。今日はたまたま部活はないが、明日の授業の予習だってあるし、何より疲れた。
はやくベッドに飛び込みたい。
はやく時計の針が進めばいいのにと心の底から思った。そしてあわよくば、担任との予定をすっぽかしたかった。
しかし、そんな私の期待は裏切られた。
あと1分のところで担任がやって来たのだ。
教壇から降りてじりじりと近づく担任に、私は顔を背け、まるで人違いだと振る舞う。だが担任はそんな私の抵抗を無視して、「待たせてすみません。場所を移動しましょう」と無神経に言った。
目の前で言われたからには、流石に無視できず、無言で床に置いてたリュック片手に担任の後に着いていった。

着いたのは教室から離れた進路相談室だった。
たしかここを使うには進路指導主任の許可が必要だったことを思い出し、せめて許可取りを忘れていたと言わせたくて、わざと「ここって許可は必要ないんですか?」と聞いた。担任は淡々と「昨日、主任に許可を取ったのでご心配なく」
私は「昨日」という言葉が引っかかった。急に私と話す時間を作ったのではなく、少なくとも昨日の時点で、もう既に決めていたということになる。
担任の手の上で転がされてる気分になり、嫌気が差す。
渋々担任の目の前の席に座った。しょうがないだろう。
席は対面で、1つずつしかないのだから。

聞かれる内容は何となく分かる。
心当たりもある。ただ、聞いてはほしくない。

しばらくの沈黙が続いて、担任が口を開ける。
「最近はどうですか?」
「どうって…?」
「学校のことです。クラスメイトとどうですか?」
あまりにも抽象的な質問におどおどしていると、担任が補足を付けた。
「普通です。特に問題はないです」
AIのような答えだなと我ながら思いながら答えた。すると先生は、少しはにかむように笑い、それはよかったですと言った。
「他に気になることはありませんか?」
「特にないです」
「そうですか」
また沈黙が降り注ぐ。
大体、そっちから呼び出してるのであればさっさと用件を言ってほしい。なぜそんなにも焦れったく、遠回りするのか。相手の意図が全く読み取れず、不安になる。

「庄司さんの作品見ましたよ、書道部の。木簡が好きなんですか?」
「はい」
「私も高校生の頃木簡が好きでした。昔の人にとってみればただの荷札だったかもしれませんが、今の私たちからすれば貴重なものになる。もしかしたら同じようなことが数100年後に起こるかもしれませんね」
「そうですね」
「木簡は元々ご存知だったのですか?」
「いえ、書道部の荒木先輩から勧められて」
「あぁ、荒木千春さんのことですか?」
「はい、そうです」
「確か、3年生になってましたね。彼女も庄司さんと同じくらいの頃、木簡を書いてました。荒木さんの木簡も庄司さんの木簡も、それぞれ違った味が出て良いですね」

10/12/2024, 10:53:57 AM