(ボロン)
桜のつぼみも膨らみ
明るい春の空気が
街を包み始めるこの時期
河川敷を散歩していると
毎年この時期に現れる
『例の』おじさんに
まさか私が遭遇するとは
思っても見なかった。
「最低!」
完全無防備の
生まれた姿のおじさんに
軽蔑の眼差しを送りつけ
走り去っていく少女を
おじさんはただじっと
見送っていた
生暖かい空気が
股の下を流れていく
「バカみたいだな」と
男は笑った。
彼女を救うには
こうするしか方法がなかった
まさか記憶を消したのに、彼女が
この場所に来るとは思わなかった。
ここは彼女と初めて出会った
思い出の河川敷なのだ。
もう、時間がない。
今から私は
地球人に恋をした罪で
宇宙連邦から処刑をされるのだ。
彼女を爆発に巻き込む訳にはいかなかった。
眩い光が体を包んでいく。時間だ。
もう、逃げられない。
「ありがとう。ナツキ。
最期に会うことができて良かった」
目を閉じる
彼女と過ごした
楽しかった日々がゆっくりと
胸を通り抜けていった----。
桜の花をぼんやりと眺めて
少女は佇んでいた
なにか大切な事を
忘れてしまった気がするのだが…。
それがなにかが、ずっと思い出せずにいる。
思い出すものといえば……。
あの日出会った
変質者のおじさん
未だに捕まっていないらしい。
あんな粗末な物を見せて
何が楽しいのやら
「ほんと、バカみたい」
彼女は呟いた。
3/22/2023, 2:02:28 PM