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魔王のいるという城に向かい出発する日の早朝。
永遠の別れを告げる前に、どうしても言わなけれはならないことがあるのに、その相手が一昨日から姿を消してしまっていた。
「何処へ行ったの、師匠。」

最低限の体と技の鍛錬をしてくれて、ようやく「これなら魔王に少なくとも傷を与えられるだろう」と師匠に言わしめるまでに、私は成長した。

師匠に挨拶できない事を諦めて歩きだし、1つ目の森へ入ってすぐだった。
「忘れ物だ。」
「師匠!」
私は師匠に駆け寄ると「こんなに長くお世話になってしまい…」と別れの挨拶の言葉を話し始めたのだが、それを遮って師匠が「これを持って行け」と美しい宝石のついた指輪を私に手わたした。
「遠い昔に作られた指輪だ。なのに錆もくもりも全くない。身を守る魔法がかかっていると言われている。お守りとして持って行け。止めろと言っても行くのだろう。」
「師匠。」私は涙をこらえて「今まで本当にありがとうございました。」と言った。走馬灯のように脳裏をよぎる思い出をふり払い、永遠のさよならを言おうとするてと、師匠が「必ず帰ってこい。お前さんの悲しみが伝わりさえすればよいのだろう?必ず帰って来なさい。待っていてやるから。」そう言って町へと帰っていった。

私は師匠が見えなくなるまで見送った。
師匠のくれたお守りをくすり指にはめると少しゆるかった。私は涙をふり払い、意を決して魔王の城に向かい歩きだした。



お題「さよならを言う前に」

8/20/2024, 7:08:00 PM