佐倉

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 川端康成は人や物を凝視する癖があったという。早いうちに家族を失い、孤児となったがゆえの宿命であり、この凝視癖によるエピソードは後を立たない。
 実際、写真で川端康成の姿を見てみると、第一に眼が印象的である。一流の作家というものは、こういう異様な風貌をしていなくてはならないのか。横光利一などは文学のためにわざと汚れた生活をしていたらしい。そういう彼も写真では髪型が異常である。
 凝視癖は観察眼にも繋がり、川端康成は見てとった世界を独自の美観に落とし込みつつ、古来日本の美的感覚を呼び起こすような作品を書いた。なかにはモデルとなった人物もいる。川端康成はそのモデルの女たちをあの眼で隅から隅まで見たのだろうか。
 盟友たる横光利一は川端康成が下宿先の二階で陽に当たりつつ眼を閉じていた姿が幸福そうだったと残しているらしい。
 それは作家という、視る者から解放された姿だったからなのだろうか。
 

4/6/2024, 11:11:15 AM