「あぁ、そういえば」
放課後の教室の中で、彼は唐突に口を開いた。
俺はそんな彼の方を向いて、瞬きで先を促した。
「近々引っ越すんだ」
は?
俺は一瞬なにを言われたのかがわからず、抜けた声が先をついて出てきてしまった。
彼は肩をすくめて見せる。
「そんな遠くってわけじゃないんだけどね」
いやいや、近い遠いの話じゃないだろ。
そんなことじゃない。
だって、引っ越すんだろ?
「まぁほら。連絡先は交換してるし。なんかあったら連絡してよ」
だから。
そういうことじゃねぇんだって。
友達だったんだろ?
なんかそういうのってもっと、惜しむもんじゃねぇの?
違うのかよ。
「……おう」
「またどっか遊び行こ」
「ん」
それから数日後、彼は引っ越して行った。
友達の誰にも言っていなかったようで、本当に突然、消えてしまったようなものだった。
送迎会的なものもなければ、彼からの別れの言葉もなく、担任からの『引っ越しました』の一言で終わってしまった。
友情というものがあったはずだった。
ニコイチって言われるくらいには、そばにいたはずだった。
彼にとっては、そうでもなかったんだろう。
俺という存在は。
これは行き違った感情の話だ。
【友情】
7/24/2023, 9:03:11 PM