『副部長、大丈夫ですか?』
小さな後輩が己を見上げて声をかける
部活動が終わり少しばかり気を抜いてしまったのか
自分の薄い唇から息が漏れていた
彼女はそれに気付いて声をかけた
「大丈夫、心配しないで」
素っ気ない言葉になるがこれが自分
彼女もそれと言って傷付いてる様子も無い
柔道着から制服に着替えて家に帰る
たかがそれだけの行為に何故こうも億劫なのだろうか
『そう言えば』
既に着替えを終えた後輩が帰りもせずに再度話しかけてくる
『副部長の噂ってホントですか?』
「なんの事?」
『いや、部長が副部長に告白したって噂です』
いつ誰に見られたのか
誰が振り撒いたのかも分からない話
ソレを聞く度に眉間に皺が寄る
「事実だよ」
『付き合ったんですか?』
「断った」
『なんで!?』
10代半ばもいかない少女が恋愛に興味を持つのも
人様の関係に首を挟もうとするのも
当たり前の日常
だが自分がその対象にされるのは気に食わない
「私が恋愛に興味無いからね」
『部長誠実そうで良い人だと思いますよー?』
「そう言うなら…貴女が付き合いなさい」
早めに退散したい
僅かばかりに持っていた制服への嫌悪を押し潰し
紺色のスカートに足を通す
『そういう訳じゃ無いですよ』
自分の声色のせいか後輩はバツが悪そうな顔をする
噂好きもお節介も程々にして欲しい
恋や愛で自分が求めてるものは手に入らない
だから興味が無い
だから断る
それまでの話だ
「暗くなる前に帰れよ」
帰るのも話すのも迷っているような後輩に出来る限り優しい声色を残す
指定カバンを手に持ち更衣室から出ていく
今日は早めに帰りたい
気分が悪い
『アキラ!』
自分と違って男性的な声で名前を呼ばれる
『今から帰るんだろ?大会の事もあるし一緒n』
「帰らない」
男の癖に目を合わせた瞬間モゾモゾと
気色悪いにも程がある
『素っ気なさすぎるだろ』
「私は早めに帰りたい」
わざわざ歩幅を合わせられると自然と足のペースが上がる
『告ったのそんなに嫌だった?』
「私はいつも通りだよ」
『確かにそうかもしれないけど』
「想いを伝えれば優しくして貰えるとでも思ってるのか?」
『…』
「…部長、私は貴方への態度を変えたつもりは無い」
期待を持つ眼差し
女性を見る眼差し
そんなものを向けるな
「変わったのは貴方の方だ」
酷く不機嫌な放課後
足を止める男を待つ事も
優しく声をかけ直す事も無い
変わらない歩調で校内を出る
暗くなり始めた空
風に揺れるスカート
男に産まれてたら
なんの違和感も嫌悪も感じずに
強さだとかカッコ良さだとか
誰かと会話が出来てたのだろうか
題名:放課後
作者:M氏
出演:🐉
【あとがき】
放課後と聞くと学校生活を連想させますね
M氏は学校に行かない時間の方が多い子供でした
家庭の事情と言うやつです
ですが指定の制服を着て同年代の子と話してみたり、時には恋愛をしてみたり
他愛無い日常を普通の感性で送ってみたかったなと大人になった今なら思えます
とは言え指定制服と言うのは如何なものかと…
ファスナーが壊れても直せない家庭でしたので
そういう時に私服でも良しとなれば嬉しかったと思います
小説に登場する彼女は性別に囚われたくないと考えていました
ですが結局は自分が1番性別に悩んで囚われていますね
身体の性別がなんであれ、誰の想いも素直に受け止めるような柔軟性
それがあれば楽だったんでしょうね
難しいばかりです
10/12/2023, 11:24:05 AM