「海へ」
海が見たい。唐突にそう思った。
乗客もまばらな午前10時過ぎの下りの電車。天気は晴れ。私はうっかりすっかり寝坊して、もはや急ぐこともなく悠々と、三時間目の授業を目指し学校に向かっているところだった。
この前、夕飯どきのテレビでみた海沿いの路面電車を思い出す。海と並行して走る線路、ホームからすぐのところに見える海がキラキラして見えた。
いくつか電車を乗り換えたら、2時間かからずにたどり着けるはずだ。
そう思ったらもうわくわくが止まらない。思いつきで行動するのは楽しい。そういう性質なのだ。
とは言ってもビビりなのでたいしたことはできないが…。
しかしながら今日のこれは、自分にしてはなかなか思い切った案だと思う。
学校が嫌いなわけではない。勉強は好きでも嫌いでもないが友達もいて、それなりに楽しく学生生活を過ごしている。
それでも、こんな天気の良い日に教室で眠気に耐えてノートをとるよりは、だいぶすてきな一日になる予感がする。
そんなことを考えている間に、本来の降車駅に着いた。プシューと音をたててドアが開く。
迷いが生じる。まだ今なら日常に引き返すことができる。何食わぬ顔で、寝坊しちゃった〜なんて言って教室に入るのだ。足元がそわそわする。
プシュー。
ドアが閉まります。
持ちこたえた。
ドアの開放時間がいつもよりもだいぶ長く感じた。
まだそんなに長くは生きていないが、やらなかった後悔よりやってしまった後悔の方がまだマシだということを知っている。人に害を与える類のことでなければね。
さて、ささやかな非日常を手に入れた私は向かう。海へと。
8/23/2024, 7:31:16 PM