「これ、お前にやるよ」
そう言って彼の片手に握られているのは、白いリボンでラッピングされた、ピンク色の小さな箱。
『え?えっ?…何?』
「何でそこで身構えるんだよ」
彼は戸惑う私に眉を下げて笑うと、今度は半ば強制的に私の手に箱を握らせてきた。しっかりとその箱を両手で握りながら思考を巡らせる。真面目で礼儀正しい彼のことだから、知り合いの誕生日やお祝いごとには必ず贈り物をしているのだろう。ただあいにく今日は私の誕生日でもないし、何か大きなお祝いごとがあったわけでもない。なら何故?何故突然私にこんな素敵な贈り物をしてくれたのか……?
「…いつもお疲れ様!じゃあ」
『えっ』
突然颯爽と立ち去っていく彼の背中を目で追う。
え、本当になんで私にこんな贈り物を?
『…じゃなくて、プレゼント!ありがとう!』
そう礼を伝えれば、振り向いた彼は恥ずかしそうに笑って頬をかいた。
『えへへ…』
帰宅後、私はしばらく彼からの贈り物に見惚れていた。
花の模様があしらわれた、ピンクのキャンドル。
使うのが勿体ないと感じてしまうほどかわいらしくて、ほのかに甘い香りがする。
ひとつ、気になることがあってスマホを取り出す。
『いやでも、勝手な憶測だし、本当かどうか分かんないし』
そう言いながらも手は動くことをやめず、慣れた手つきで検索フォームを開いた。
『キャンドル…プレゼント、意味……ウワ~私恥ずかし…』
私なんてこと調べてるんだろう。まるで恋する乙女みたいなことしちゃって…
『や、恋はしてるけど、してるけども』
なんだか小っ恥ずかしい気分を紛らわすように独り言を呟きながらスマホの画面に目を通す。
“あなたの心に寄り添いたい”
『っ!』
確信の持てない甘い言葉に、体温が上がる。
こればっかりは完全に私の勘違いだろうけど、それでも心はドクドクと脈を打つ。
勘違いして舞い上がって、これが恋の楽しいところでもあり、苦しいところでもあるよね。
ふと、私の心と相対して明るい無機質な通知音が鳴る。
見てみると、彼からの通知が2件。きっと今日のプレゼントのことだろうけど、あまりにもタイミングが悪すぎる。
『いつも通りの会話…いつも通りの会話…』
一息ついて彼のトーク画面を開く。
“プレゼントの意味、調べてみて”
“あと、明日、会いたい”
一息ついて静まった心臓が、またドクドクと加速し始める。
……これは、勘違いじゃ、ないかもしれない。
11/19/2024, 12:37:52 PM