狼星

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テーマ:1000年先も #83

ララキも加わり人外(ハーフ込)4人でミッドナイト組織へ向かう一同。一方、囚われている勝瑠が見たものとはーー

『おい。お前ら』
一気に空気が凍りつく。僕はゴクリと唾を飲み込んだ。呼吸すらも忘れてしまいそうだ。
『『は、はいぃ!! ボス!!』』
『ちゃんとやってんだろうなぁ!!』
『『はいぃ!!』』
これが…この組織の、ボス。
『お前か。時使いは』
その男はデカい体をしていた。人間ではないしかし、人外でもない。まさに化け物だ。僕はその男から目を離さなかった。いや、離せなかった。
で、デカい…。こんなのと戦ったら、すぐに骨を何本も折られそうだ…。
『お前ら、コイツを出せ』
『はいっ!!』
1人が返事をして、ガチャガチャと鍵を開けようとするが震えている。やばいかもしれない。殺されるかもしれない。怖さで顔が強張りそうだ。もう、強張っているかもしれない。ここで顔をそらせば、一瞬で首を掴まれそうだ。そうなれば……
『早く出ろ!』
鍵をやっと開けた見張りが言った。声も震えている。
出るしかない。僕は歩き出そうとするが後ろに引っ張られる。
『あ、そうだ。忘れてた』
そう言って震える足で入ってくる見張りが、僕を繋ぐ鎖を外した。途端、僕は猛スピードで檻から出る。これは着いてこれないだろう。そう思ったのもつかの間、服を誰かに引っ張られる。
『ゲ、』
僕は掴まれた相手を見てギョッとした。それはあの男だった。
『離せっ!』
僕がジタバタしていると床に叩きつけられる。
『グハッ!』
衝撃が僕の体中を走る。やばい…殺される…。
そう思ったその時
「やめろ!!」
そう声が聞こえた。


「あれは…勝瑠!?」
僕は勝瑠を大きい何かが、押し倒しているのを見た。見張りはなんとか潜り抜ける(倒すこと)ができたが、何だあれは…。
「やめろ!!」
僕が叫ぶと大きい何かがこっちを向く。なんだ…あれ。
『化け物登場ってか?』
シャドウはこんな時もケケケッと笑う。
『全く、本当だったのか。あの噂は』
呆れたように言うララキ。
『勝瑠っ!!』
そう言うリーリエは僕より先を行く。「リーリエ、危ないっ!」そういう前にリーリエは飛び出して化け物に向かう。
『あぅっ!』
リーリエはあっさりと化け物に捕まった。
『やめっ、!』
リーリエがもがいている。
『真!』
「分かっているって!」
僕は第三の目を閉ざす。化け物は止まるはず…が、止まらない。ただ、動きが鈍くなっているのを察するとリーリエを掴む手を掴み力を入れるとデカい腕の力が弱まりリーリエが開放される。勝瑠もシャドウが抱えている。
「みんな、早く行くんだ!」
僕はそう皆に言う。
『真兄さん!』
僕の呼ぶ声が聞こえた。僕は化け物を睨み前に立つ。
『ダメだ! シャドウ!! 離せ!!』
後ろでそんな声が聞こえてくる。ごめんな、勝瑠。僕は勝瑠のことを覚えていないのに…。でも、僕はリーリエとシャドウに教えてもらった。
僕たちはコイツと過去に会っているらしい。


約10万年前。僕たちは生まれた。
それから50年くらい経ったある日、両親と勝瑠と共にクルーズ船に乗った。その時の経験が前に見た夢。あれは過去に実際に起こった出来事なのだ。
それならなぜ、僕はその時のこと勝瑠のことを忘れていたのか。それはこの化け物が関わっているらしい。

船が沈没した理由は、この化け物が行う人体実験のための人間の器集めのためだった。ミッドナイト組織は人間を改造し、人間と人外のハーフを人工的に作り出す悪趣味な組織だそうだ。リーリエは組織内を調べ回り情報を集めたらしい。掴めた情報からこれがわかった。
そしてシャドウとリーリエがともに教えてくれた真実。それは僕も勝瑠も記憶を消されたということだった。人体実験のために沈められた船の中にいた僕たちは、一緒にミッドナイト組織のこの本部に連れてこられた。
人体実験を行うため、記憶を消す作業が行われたらしい。その記憶を消す最中、1人の子供が1人の記憶をなくした少年とともに逃げ出した。それが、勝瑠と僕、真だった。兄弟とも知らない僕は、そのことを知らずただ、勝瑠とともに逃げた。そんなことも僕の中にはなかった。しかしそれは、両親が僕たち兄弟を記憶があるうちに逃がそうとした、決死の行動だったらしい。
僕たちの母親が人外だと知られたことから、人外とのハーフの子どもたちが逃げたと知られ、能力が伝承されている可能性のある僕たちは、追われる身となった。

僕は勝瑠のことを1000年近く、思い出していないらしい。そんな僕はこの化け物に、何もせずに帰るわけには行かなかった。
実は記憶を消された後、一度だけ僕らは時を駆けた。
『1000年先も』行くことができたらしい。
人外の寿命は長い。人間よりも遥かに。

2/3/2023, 2:26:58 PM