「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いや……僕は、勝手についてきただけだから。邪魔してごめん」
「ううん。私ね、思い出したの」
君は慈しむように、トランペットのケースに視線を落とした。
「私、この子を吹くことが好きだったんだって。それを……あなたに聴いてもらうことも、好きだったの」
そう言って、僕の顔を見上げて微笑んだ。
「だから、一緒に来てくれてありがとう!」
「……こちらこそ、聴かせてくれてありがとう」
僕もそうだった。君が吹くトランペットが、僕は好きだった。
優しく包み込むような温かい音色も、天高く突き抜けるような鮮やかな音色も、豊かな表現力で奏でる君のトランペットを……いつまでも、聴いていたかった。
自作小説『有り得た(かもしれない)話』より
8/12/2023, 2:18:50 PM