桜月

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 『はい』

 それ以上の言葉が、色んな感情が、
胸に詰まって 言葉にできない

溢れ出す涙が頬を伝う…

彼が私に優しくキスをした

『で、結局さ あの時は
「誓います」って言えてないの!
「はい」しか言ってない
だから、誓ってないの!』

「ちょっとあんたこれ、何杯目?」

空き瓶を並べてクダを巻く
私の電話を受けて 居酒屋に駆けつけた
友人の言葉だ

「ねぇ、
あんた いい加減にしなさいよ?」

『なによ… だってさ、
まだ、結婚して1年も経ってないのに
もう、浮気してさ!』


この友人は私をよく知っている
小学校からの深い付き合いだ

性格、好きな食べ物 
洋服の好み 過去の男関係…
なんでも お見通しなのだ

「あんた 疑い深いしさ
 思い込み激しいし…
今までだって 浮気だ!とか大騒ぎして。
違いました〜って 事 あったよね?」


『あった。
 あったよ… そう あん時は違った
なんか 様子がおかしかったから
浮気かなって…
まさか、プロポーズしたくて
ソワソワしてました
なんてさ…そんな事が あった。

けど、今回は 本当に疑わしいの!』

はいはい…
あの〜すいません、ここ
お勘定いくらですか?

友人は私の言葉など 聞かず
勘定を済ませ どこかへ電話をしている

しばらくすると その疑惑の夫が
迎えにきた

すみません…と何度も頭を下げ
私を車に押し込んでその場を後にした

「また、明日電話するからね」

… 本当 あの子の酒癖の悪さは
呆れて 言葉にできないわ…


  #言葉にできない

4/11/2023, 2:49:38 PM