夜の海 紺碧の夜に呼ばれ、海辺へと歩きだした。 すでに空に太陽はなく、ただ涼やかな夏の香りだけが私を大地と一体にする。 立秋も過ぎたというのに、この蒸し暑い温度さえどこか心地よい。「……夏だなぁ」 ぽつりとこぼした言葉がすっかり海に溶けたころ、砂を踏む小さな足音を聞く。「花火? はいはい、水汲んでくるから」 立ち上がって一度海を眇めてみても、もうあの海ではなかった。
8/15/2023, 10:58:36 AM