haru

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深夜、数時間の押し問答の末についに向こうがキレだして、観念して家を出る。
向かいの本屋のシャッターの前。ここでずっとメールしてたんか。気合いやな。あんたこんな顔してたんやね。
男の家の男の部屋に入って、まあ適当に抱き合って一服して、何を話したんだっけ。Syrup16gのクロールが流れていた。
いつの間にか朝になって少し眠って。
起きたら隣に男はいなかった。わりとしばらくいなかった。
携帯をいじっていると、階段を上がる音。戻ってきた男の手には、2Lペットボトルとマグカップが二つ。
飲みな、と何かを入れて渡してくれた。
意外なことにミルクティー。それもなんか市販ぽくないやつ。
どしたんこれ。
作ったやつ。
は?自分で?
そうやけど。
手作りミルクティーをペットボトルにぶち込む人を初めて見た。しかも無駄に美味いのだ。
飲みながら、そろそろ帰るわ、と。送るか?とは言ってくれたが、遠慮してそのまま部屋を出た。男はずっとミュージックビデオを観ていた。

まだ斜めにある太陽に温めてもらいながら、さっきまでのことをなぞる。
シャッターの前の不機嫌面と、クロールと、ミルクティー。一重と、線の細い体。
初めての、これっきりの、さっきまで。
明日男は行ってしまう。また遠い所へ帰るのだと言う。そうして昨日までの二人に戻る。

私が、あんたが、お洒落なティーカップでお洒落な紅茶を飲む人間で無くて良かったよ。色とか香りを楽しむ人間で無くて良かった。素敵な名前を知らない同士で、本当に良かった。

もしそれだったら綺麗過ぎて。
思い出にするには、パンチが足りんよ。



(紅茶の香り)


※実話。思い出しながらの、脚色。

10/27/2023, 3:43:18 PM