手を繋いで
シーツの上に転がる、白くて細くて、だからたよやかにみえるその手。◾︎◾︎は目の前のそれに手を伸ばし、甲を包み込むようにしてやわらかく握った。自分の手からはみでる指先の爪たちは、オーバルの形にきれいに整えられお行儀よく並んでいる。ボワデジルみたいなえんじ色は、自発的に窓から差し込む月明かりを集めてぴかぴかとその存在をアピールしているようにみえた。そう非現実的なことを思ってしまうくらいには彼女の指先はまるで宝石みたいにいつもきれいに整えられている。人間、きれいなものにはどうしても目が奪われるらしい。ひとときのあいだ、◾︎◾︎は握った手を少しずつ動かして爪先でつやめく光の反射を楽しんだ。それからふと、隣で眠る彼女の寝顔を眺めた。警戒心のケの字も見当たらない。すやすやと自分のとなりで寝息を立てる彼女の顔をみて、◾︎◾︎は目を細めた。
——こいつが終電逃すとか、やっぱありえねーんだよな。
何年、幼馴染をやってきたと思っているのだろう。実の弟から煙たがられるくらい時間にうるさい彼女が、少し酒をたしなんだくらいで時間に無頓着になるわけがない。いつも以上に甘えたしゃべり方がかわいくて、少しからかうと唇を尖らせて拗ねたりなんかして、自分も昨夜は舞い上がっていたことに反省しなければならないだろう。けれど、一線を超えたことに後悔なんか一切ない。
彼女が起きて正気に戻ったとき、どんな反応をするのだろうか。後退を望むのか、前進を許してくれるのか。これまで彼女が自分のことを男としてみてくれているだなんて聞いたことがない◾︎◾︎にはまったく見当がつかなかった。
変な緊張をほぐしたくて、◾︎◾︎は握った手のひらに少しだけ力を込めた。
12/9/2024, 1:28:34 PM