[黄昏]
大分日が沈んで当たりが薄暗くなるのをぼんやりと何をするでもなく本丸の縁側からただ眺めていた。
本丸の季節は景趣によっていくらでも変えられるのでずっと桜が咲き誇る春だったり、しんしんと雪が降り積もる雪景色が続いたりと四季の感覚が無い本丸も稀にあるそうだが自分の小さなこだわりとして折角なら季節の移り変わりを楽しみたいので今は鮮やかな赤や黄色に色付いた葉が時折舞い落ちる秋の景趣にしている。
徐々に行燈の灯りが目立ち始める中でひらり、とたまに舞い落ちる紅葉たちはとても綺麗で現代に居たら中々見ることは出来ない景色だなとしみじみ思ってしまう。
「主、執務が終わってからずっとここに居たのか?」
沢山の刀剣男士が居る本丸の中でも人気が無さそうな縁側に居た自分に突然降ってきた言葉。それに対して短く肯定の言葉を返すとそうか、とだけ彼も応えて静かに自分の隣に座ったのは自分が審神者になってから長く近侍を勤めてくれている鶴丸国永だ。
そんな彼に対して自分もぽつぽつと言葉を交わす。審神者になって長いけれどただ自分の本丸の刀剣男士達を戦場へと送り出し見届ける事しか出来ないもどかしさに未だ慣れないこと、本丸で皆と四季折々の楽しさを共有したことなど取り留めのない話を鶴丸は時折相槌をしながら静かに聞いてくれた。
今日は何時もなら話さないのだけれど、何処と無く縁側から見える綺麗でどこか切ないような景色に気持ちが引きずられてしまったのか少しだけ気持ちが弱ってしまったらしい。自分が審神者としてあとどのくらい貴方達と一緒に居れるのだろうとぽつりと漏らしてしまった。
言ってしまった後に言うべきでは無かったという後悔が襲ってきたが聞いていたのが鶴丸だけだったのが幸いかもしれない。今の言葉は忘れて欲しい、と言おうとした時だった。
「この先はどうなるか分からないが、この本丸にはまだまだ主に居てもらいたいと俺は思っているさ」
口調は普段通りだが、いつものような飄々とした声色よりも真剣味を帯びた声色で返答が返ってきた。本丸の総意という訳では無いけれども、少なくとも自分がまだここに居ていい理由を彼が与えてくれたような気がして少しだけ気持ちが軽くなった心地がした。小さくありがとう、と感謝の言葉を伝えると鶴丸は笑顔で自分の頭に手を置いた。
「大分冷えてきたから体に障るぜ。光坊に温かい飲み物を作ってもらって、厨の前を通り掛かった連中も呼び込んで話でもしながら身体を温めよう」
そういう彼の提案に自分も釣られて笑みが零れる。そうだね、と同意して縁側から離れた。少し歩いてから振り返って見た本丸の庭はもう宵闇に沈んでいたけれど、行燈の灯りに照らされた紅葉たちの鮮やかさのせいか、鶴丸の励ましの言葉のせいか不思議と先程の寂しさはもう感じなかった。
10/1/2023, 1:47:18 PM