狼星

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テーマ:時計の針 #86

僕たちは未来へ向かう。この能力は本当に便利だ。
しかし、もう過去に行くことはないだろう。
過去を変えるのはリスクが大きすぎる。今回だって未来が変わっている可能性がある。
僕たちはシャドウとリーリエにもう一度会えるのか。
ララキのような人外の知り合いに会って、忘れられていないか。普通に話せるのか。
勝瑠に言ったら心配させそうだから言わなかったが、きっと勝瑠だって同じようなことを考えていただろう。
「勝瑠」
僕が弟の名前を呼ぶ。彼はビクッと肩を上げた。
「なに? 真兄さん」
僕にへにゃっとした顔で言うが、きっと怖いと思う気持ちは一緒だろう。
「大丈夫。大丈夫」
僕はそう言って彼の頭を撫でる。
「もう…兄さん。僕そんな子供じゃないよ…」
そう言いながらも僕の撫でている手を、振りほどくわけでもなく。
「シャドウは絶対に俺たちのことを覚えている」
僕がそう言うと、勝瑠は口をツンとさせた。
「リーリエだって絶対に覚えているもん!」
そう言ってから勝瑠はプッと吹き出し笑った。
僕もつられて笑った。
いつの日からか、気づくと笑うことも少なくなっていた。兄弟と笑い合うのがこんなに至福だとは知らなかった。

「未来に帰ってきた、な」
僕がそう言うと周りを見た。周りには高いビルが並び、空は真っ黒なのに明かりがついている。どこからか人間がうじゃうじゃと渇いてくる。
僕はそれを毎日のように見て。ときにはそれに紛れて生活していた。そんな日々も最近はあまりしてこなかったためか、懐かしさすら覚えてくる。また、日常に戻ったら普通になるのだろうけど。
「真兄さん。シャドウとリーリエは、どこにいるんだろうね」
確かに、集合場所を言うのを忘れた。ただ僕はこの街を一望できる場所を知っていた。
「1つ心当たりがあるとすれば…あそこだな」
そう言って指さす。僕たちはそこへと向かった。

ーーカン、カン
僕は階段を登っていく。勝瑠は会ったときに空を飛んでいた。しかし、今日は一緒に階段を登っている。
「たまには階段もいいかな」
なんて言って隣にいるがバテている。
「大丈夫か?」
「へーきへーき。こんなのよゆー」
そう言いながらも、表情は全然余裕は無かった。
「もうそろそろ着くから」
そう言うと僕は勝瑠を励ます。

「着いたー」
そう言って拳を掲げる勝瑠。着いたところは僕と勝瑠が再開したあのビルの屋上だった。ここからだったら見えるかもしれない。彼らの姿が。そう思ったのだが、その必要はなかったようだ。
『オイオイ…おせーぞ』
『本当ですよ。もう少し早く来てください。首を長くしすぎて麒麟になりそうでした』
シャドウとリーリエがそこにいた。
『全く、リーリエの言う通りだぜ。この兄弟はそんなに人外を待たせることが好きだな』
ケケケッとお馴染みの笑いをしているシャドウと、リーリエがこちらに来る。
『ケリはつけてきたか』
シャドウがニヤッとして言う。
「もちろん」
僕は口角を上げる。
『怪我はしてない?』
『オイオイ、どこぞの母親かよ。リーリエ』
『えぇ! 私は勝瑠と真様の第二の母親ですもの』
リーリエが胸を張って言った。
『あ! それいいな! じゃあ、俺は第二のとーちゃんとなるぜ!!』
『シャドウ…。貴方。父親って感じはしないけど…』
そんな感じでワイワイやっている2人。知らないうちに仲良くなっていたようだ。
『あ、そう言えばララキも楽しみにしていたぜお前らが帰ってくるの』
シャドウが思い出したようにポンッという。
「ララキ?」
「あぁ…。僕の大切な親友だよ」
僕がそう言うと
「じゃあ、挨拶しに行かなきゃね」
そう笑った勝瑠。僕たちは闇夜へと戻っていく。

ふと、街を離れるときあの化け物のことを思い出した。あの化け物がやろうとしたことは人外の世界を作ろうとしたんじゃないかって。そうだとしたら僕も最初、同じことを思ってやろうとしていたな。そう思った。
まぁ、今では知る由もないが。

過去はもう変えない方がいい。
時計の針が一定に動くように、
時も一定を刻み、思い出を紡ぐ。
良いことばかりじゃない。
でも、悪いことばかりでもない。
過去は変えられないからこそ、過去になって振り返ると
「あぁ、こんなこともあったなぁ」て懐かしく思える。それを変えてしまうだなんて、もったいない。

だから僕たちはもう過去には戻らない。
未来へと駆ける。
二人一緒に手を繋いで。

                     __end.
『時使い兄弟のキズナ』

※こんにちは、こんばんわ。
 あるいはおはようございます。
 狼星です。今回は『時使いの兄弟のキズナ』という話
 を書かせていただきました。
 リレー小説、第2弾です。どうでしたでしょうか。
 お楽しみいただけたら、狼星は嬉しいです。

 私としてもこのリレー小説企画は、時を越えての小説
 づくりなため、予想外のお題にはどう対応しようかい
 つも迷ってしまいます。(短編にすればいいのに…。
 
 さておき、無事に終えることができてよかったです。
 次からは短編に戻ろうかなとも思っています。
 またいつか、第3段のリレー小説もやろうかなと、
 考えてもおります。
 
 いつも楽しみにしてくれている方、いてくださったら
 嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。
          以上、狼星でした。また明日。

2/6/2023, 1:03:54 PM