NoName

Open App

『ふとした瞬間』


引っ越しの準備の途中に見つけた、古い写真の束。
今はもう開けることもなくなった引き出しの奥に入っていた。
それは、ふとした瞬間を切り取った、何気ない日常の写真だった。
君の笑顔もそこにあった。怖いものなんて何もないような、無邪気な笑顔。
そうだね。あの頃の私たちには、怖いものなんてなかったよね。
そこには、きらきら輝く当時の記憶が、少し色褪せて、確かに存在していた。
思い返して、宝物だと気づく記憶--
おそらく青春時代を経験した誰もが自分の中に持っているであろうその記憶は、私にとっては、思い返すことを意識的にしないようにしてきたものでもあった。
思いがけず見てしまった君の笑顔に当時の記憶が蘇る。
私はあの頃のことを思い返さないようにしていたのだ。改めて思う。思い返すと、後悔が心に押し寄せて、止められなくなると思った。そして変えられなかった大きな波--正しく抗おうとすることもできず、何が起きているか理解することさえ困難だった、気づけば呑み込まれていたあの暗く、黒い海の底に沈んで、もう二度と上がってこられなくなるような恐怖に、勝てないと思ったからだった。

今、あの頃のふとした瞬間を、思い出している。記憶の一つ一つをなぞるように、丁寧に思い出す。そして私たちが過ごした時間を、君が生きた時間を、正しく意味付けすることはできないけれど、ただ懐かしく思い返す。
君の笑顔をもう一度見ることができて良かった。

今、君は笑えているのだろうか。
あの頃と同じ笑顔で、過ごせている?
君がなし得た大きなことを知っている人は確かにいる。
そして、あの頃のまだ子供だった君がどれだけ無邪気に笑っていたか、私が覚えている。

4/28/2025, 1:26:00 AM