テーマ:特別な夜 #70
乗っていた船が海の底へと沈む夢を見た真。
目を覚ますと勝瑠の部屋に戻っていたーー
『大丈夫か?』
シャドウは起きた僕にそう問う。
「あぁ…。変な夢を見ただけだ」
僕がそう言うとシャドウは首を傾げた。
『真が変な夢を見たなんて、珍しいな』
確かにあまり夢を見る方ではない。それも久々に見た夢が変な夢だなんて…。
「……」
そういえば、あの夢の中で男が言っていたな。「勝瑠」って。そういえば、僕を見て「真」とも言っていた。
あの人たちは僕と知り合いなのか…?
『調子はどうだい?』
そう言ってドアを開けたのは勝瑠だった。
「大分いい」
僕がそう答えると勝瑠はニコッと笑った。
『そういえば、さっきトカゲを捕まえたが消えちまったんだ。お前の仕業か?』
僕に笑った勝瑠にシャドウが言った。すると勝瑠の表情が曇った。
『…それってどんな模様のだった?』
シャドウの方を見て言った。
『さぁ…俺はよく見ていなかったから…』
「白いトカゲで、紫の変な紋章がついていた」
僕がそう言うと勝瑠の顔が青くなっていった。
『まさか…アイツ等が』
勝瑠が小さく呟いたのが僕には聞こえた。
「アイツ等って?」
僕がそう聞く勝瑠は、僕の方を見て何も言わなかった。
『真兄さんには、迷惑かけたくない。それに、まだ僕のこと完全に信じてないんだろ?』
確かに、僕は勝瑠のことを信じたわけではない。でも何かに困っているなら話は別だろう。僕はそう言おうと思いながらも、口からは言葉が出なかった。
『もうすぐ夜が明ける。真兄さん、急に家に上がってもらってすみませんでした』
そう言って勝瑠は、笑った。でもその笑顔は部屋に入ってきた時の笑顔ではなく、ナニカを隠すような笑顔だった。
『ここから僕は別方向に行きますね』
僕たちは外へと出ると少し歩いた。
全く知らなかった道だったが、知っている道へと繋がった。それを知っていたかのように勝瑠はそう言って着た道の方向に足を向ける。
勝瑠とは年がそう離れている気はしない。中学生くらいだろうか。僕たちは歩いているときにあまり話をしなかった。シャドウが気を使ってか話を振ってきたことはあったが、軽く返すくらいで個人情報は全く知らない。
『あ!』
勝瑠は僕たちと少し逆方向に歩いてから思い出したように言った。
『真兄さん、あの紋章には気をつけてください』
勝瑠は真剣な顔をしていた。僕はその圧に押されるようにして頷いた。
『では』
そう言って勝瑠は離れていった。
なんだか凄く特別な夜を過ごした気がする。
長い夜が明ける。
1/21/2023, 1:31:05 PM