透祈

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公園で旅人に出会った

名前も教えてくれない

不思議で、変わった人。

何故かは分からないが

彼に凄く惹かれた

この街には、1週間だけいるらしい

名前も、年齢も

彼のことは一つも知らないが

きっとこの時から

多少の恋心を抱いていたのだろう。

だから、惹かれたのだ。


その日から1週間

彼に会いたくて

公園に通い続けた

彼はいつも、

手に缶コーヒーを持ち

空を見上げていた。

肩をポンポンと叩くまで

私の存在に気づかないほど

ただ、只管に空を見つめているのだ

それが不思議で

「ねぇ、いつも空をみてるのは何故?」

と、聞けば

「空が私を見つめているからだよ。」

と、彼は答える

なんて可笑しなことを彼は言うのだろう

空には目がないのに。

疑問を抱きながらも

続けて質問をする

「貴方は何歳なの?」

「さぁね。」

「いつから旅をしているの?」

「わからない。」

「…空は好き?」

「好きだけど嫌いさ。」

彼は曖昧なことしか

答えてくれないけれど

私は懲りずに質問をした

「じゃあさ、どうして旅をしているの?」

数個目の質問

「…人を、探してるんだ」

「へー、どんな人探してるの?」

「好きだった、いや、好きな人。かな。」

「…、好きな人かぁ。」


あぁ、聞かなきゃよかったかも。


「その人の写真とかないの?」

「もしかしたら、知ってる人かも。」

目に張った膜が

雫になって溢れる前に

へたっぴな笑顔を作った

「写真はあるよ、ほら、これ。」

今よりも若い彼の隣には

綺麗な女性が立っていた

「すごく綺麗な人だね。」

「こんな綺麗な人会ったことないなぁ」

そう言うと彼は

「そりゃあ、会ったことないだろうね」

「もう彼女はいないから」



「…え?」



彼女はいない、彼は確かにそう言った

それも哀しそうな顔をしながら。


「…それって、死んじゃったってこと?」

自分でもデリカシーのない質問だと思う

だけど、気になって仕方がなかった

「あぁ、そうだよ。」

彼は淡々と告げる

「病死でね、2年前に旅立った。」

「、じゃあ探してるって?」

「そのまんまさ。」

「探していたんだよ、彼女と
彼女が好きだと言ったこの公園を」

「やっと、見つけられたんだ。」


あぁ、そっか。そういうことか。

彼が空をずっと見つめている理由も

ずっと、旅をしていた理由も

全部、彼女がいたからだ。

それと同時に

この二人世界に入れるほどの隙間は

私にはないことを物語っていた。

ネガティブなことを

独りで黙々と考えていると

突然彼が喋りだした


「そういや、今日でここに来てから
1週間が経つ」

「そろそろ、この街もでることにするよ。」

「え、あ、そっか」
「1週間ってはやいねぇ、」


たった、1週間

されど、1週間

彼との時間は長いもので短かった


「旅をしている中で、
こんなに話しかけてくれる子は
初めてだったよ」

「楽しかった、ありがとう。」



そっか、もう終わりなんだ。



「私も貴方と話せて楽しかった」



名前も、年齢も知らないままだけど

またいつか

_ここではないどこかで

逢えたらいいな。

6/27/2021, 11:44:36 AM