声が聞こえる
「貝殻に耳をあてると声が聞こえるんだって」
叔父に言われて法螺貝に耳を当てたことがある。
「どう? 聞こえる? なんて言ってる?」
せっつかれてもなんの声も、音すらも聞こえなかった私は大変困ったのをよく覚えている。
「おじさまは、聞こえるんですか?」
恐る恐る聞いてみると、にんまり笑われる。
騙されたのだ。
ぷんぷん怒った幼い私に、無花果を半分渡して機嫌を取ろうとした叔父はたいそう愉快そうだった。
あれから時は十年は過ぎた。
頂いた貝殻は時折磨くだけで耳にあてることはなかった。
このお題を見てふと思い出し、耳に当ててみると叔父の特徴的なくつくつという笑い声が聞こえた気がした。
9/22/2023, 11:25:13 AM