かつて同じ学舎にいた仲間が、5年後、日本を騒がす大テロリストになっていた。しかもテロリスト特別対策本部に所属する羽目になるとは、相当な悪夢だ。
知り合いが罪を犯しているという事実だけでも胃が痛いのに、アイツを追わなきゃいけないというのはストレスでどうにかなりそうだ。そもそも、そんな事をしでかすタイプでも無かっただろうに!意味がわからん。
思考だけがぐるぐる回る。
だが時間は止まってくれない。
そうこうしているうちにも被害が出てしまうかもしれない。公共の安全と秩序が優先されるべきであり、余計な私情はその為に排除するべきだ。自らの感情を整理し、第15回テロリスト特別対策本部へ向かった。
そこからは時間の流れが早かった。
寝て、起きて、ネットを調べて情報収集して、各地の署員に聞き込みして、過去の犯行を反芻して、デスクで纏めて、寝て、起きる。もちろん、同じ学舎に居た仲間にも連絡取り合ったり、情報知ってそうな奴にはアポ取って会ったり。家に帰れない日は多々あった。多忙を極めたが全てはこれ以上被害が出ない様に、アイツ止める為に。
遂にアイツの有力な情報を手に入れた時は、手が震えた。しかし、「有力」な情報であって「確定」した情報でない。しかもその情報が次のテロの場所であるのであれば尚更。情報がガセであった場合は他の場所が狙われている場合もある。だが、振り回され続けてやっと掴んだコレに賭けたい、アイツは来る様な感じがする。使命感と馬鹿みたいな直感があった。そして、危険が伴うこの任務、自ら手を挙げて最前線に行った。
直感は当たった。アイツはその場所に居た。逃走劇は10分続き、橋の上まで追い詰めた。コレで終わりだ。
アイツは逃げる様に防護柵の方まで走っていく。逃すまいと追いかける。自分だけ前に出た。アイツが振り返る。ふと目を細めた。
「ザキじゃないか。」
この厳戒態勢に不釣り合いな程呑気な声で、自分を呼ぶ。
「こんな所で旧友に会えるなんて嬉しいよ。」
「こんな所で会いたくなかったけどな。」
もうじき川にも船の応援が来る。それまでの時間稼ぎ、付き合ってやろう。
「今日は本当に良い日だなぁ。」
「最悪だけどな。」
「ザキは変わんないな。」
「オマエはすっかり変わったな。」
「刺々しいなぁ。」
「誰のせいだと。」
「それじゃあ、また」
なんだよ、それ。
最後に見たのは、クソ満足そうに橋から川へ落ちてゆくアイツの顔だった。
#脳裏
11/9/2023, 11:59:51 AM