🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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089【永遠に】2022.11.01

「永遠に愛を誓います、なんて、ありえないよね」
ふたりならんでテレビを見ていたら、結婚式場のコマーシャルが流れてきた。そんなことをいいながらクスクス笑って、きみはぼくの肩に甘えるようにもたれかかってきた。
「え、きみはぼくを永遠には愛してくれないの?」
ぼくはぼくで、イタズラっぽくきみをのぞきこんで、揶揄するように、軽いキスをした。
「さあ、どうなんだろ?でも、いまは大好きだよ」
と、きみからもお返しのキスがきた。
「永遠はあるよ」
ぼくはちょっとイジワルな気分になって、反論してみた。
「それはね、つまり、新陳代謝を別の言い方であらわしただけだから」
きみはぽかんとした。それから、なによそれー、また哲学テッちゃんきたよー、ウケるんだけどー、とまるで関西のどつき漫才の芸人のように、ぼくの体中をばしばしたたきまくった。
「だからさ、伊勢神宮の式年遷宮みたいなもの」
「シキネンセングウ?……あ、わかるかも。何年かに一回、神社を新築するってやつ?」
そうそう、知ってるじゃんよー、とか返しながらも、えらくザツな理解のしかたにぼくは苦笑した。
「伊勢神宮ではね、二十年に一度、社殿も宝物も、全部新調するんだよ。つまり、神様の新陳代謝」
きみは、ふふふ、全部総取っ替えの新陳代謝なんて、美容によさそうだね、アマテラスさんも女性だから、そのへん気にしてんのかな、なんていうたわいないことをつっこみながら、
「あ、ていうことは、新調するたびに若返るってこと?アマテラス、美への追求、貪欲すぎじゃん!美魔女かよ」
って、きみがそーゆーとっぴょうしもない発想をするところが、ぼくは好きだ。
「そう、二十年に一回、神社が若返るんだよ。人間の努力でね。その努力を継続してきた結果、昔からの建築や伝統工芸の技術なんかも引き継がれてきてるんだよ。すごくない?」
「すごい。マジすごい。努力、偉大」
「だから、永遠っていうのは、新陳代謝のための不断の努力をし続けること。人間が努力をし続けることで、永遠を可能にできる」
ふーん、永遠って、つまり、努力のことだったんだー、ときみは感心しかかっていたけど、
「ところでな。いま、不断の努力、って、憲法入ったよね?」
「うん」
「伊勢神宮と憲法ならべて語るヤツ、たぶん、あんたしかいないんだけど!」
すると、ああ、まただ……ちょーウケるっ、と全身をべしべしとしばかれた。
それからきみはやおらたちあがり、ぼくにもたちあがらせて、手を握り、まるでラピュタのシータとパズーが「バルス」をするときのように、握ったふたりの手をかかげ、
「わたしたちふたりは、永遠の愛を現実のものとするために、不断の努力を怠らぬことを、ここに誓います」
とおどけた調子で誓いを立てて、なーんてね、とかってケタケタ笑ってるんだけど。そこをすかさずぼくはぎゅっとハグした。
「誓ったね。うそついちゃだめだよ。結婚しよう」
え?、と、きみはあきらかに虚をつかれていた。ぼくの腕の中できみの体がきゅうにしなやかになった。
そして、ぼくときみは、ふかくふかく、永遠のためにキスをした。

11/1/2022, 1:42:04 PM