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# もっと知りたい

 鏡を見るのが嫌いだった。けれど、見続けた。
 本を読むのが嫌いだった。けれど、読み続けた。
 鏡の中には、うんざりするほどの白が映り込む。
 本の中には、焦がれてやまない外の世界が描かれている。
「この白がなければ」
 ずっとそう思っていた。耳にタコができるほど聞かされた「雪みたいだね」という言葉は、その度に私の心を少しずつ削っていった。
 この白がなければ、この景色も見られたのかな。
 褪せた表紙を撫でながら思った。モノクロの写真は物足りない。もっと鮮やかに、もっと綺麗に、もっと直接的に。この手で、この目で確かめたかった。
 もっと知りたい。もっと感じたい。もっと、もっと。
 その叫びは私の体をとうに飽和して、もうずっと溢れ続けている。

3/13/2023, 4:38:06 AM