狼星

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テーマ:10年後の私から届いた手紙 #95

『10年後の私へ』
私はそんな手紙を見つけた。
なんだろう? こんなもの書いたっけ?
そう思いながらも封を開ける。
『10年後の私へ。きっと貴方は、これを書いていることすら忘れていることでしょう。』
一文目からまるで今の自分を見透かすかのように始まった手紙は、全部で5枚あった。

私は記憶喪失になることが時々ある。
いや、少なくて年に一度くらいの頻度である。
最初は記憶を失ったことにあまり自覚はない。ただ、忘れっぽくなって、自分が誰なのかわからなくなって、どうやって生きていたのかわからなくなって…という感じだ。
親にもそのことを言うことができなかった。
記憶喪失が始まったのは中1と日記に書いてあった気がする。記憶が曖昧なので鮮明には思い出せないが、クラスみんなの名前と顔を忘れ、位置から覚え直した。
その時はまだ、なにかストレスや負荷をかけすぎたのだろうと親に言われ、母はひどく心配していた。
母は私が怪我や病気をするとすごく心配する。私よりも私の体を大切にしてくれている。それは嬉しいのだが、それが過保護に繋がっている気がして、私は自然と記憶が無くなることを母に言えなくなった。
かと言って、父に言えるわけではない。だから私は日記を書くことにした。日記であれば自分がその日したこと、あった出来事などがわかるからだ。
私は日記と並行して未来の自分へ手紙を書くことがあるらしい。
それが今回見つけた手紙も一部。
私はこの手紙以外にも何枚も見つけているらしく、これを私は『未来への手紙』と呼んでいる。
いつ記憶がなくなっても困らないように、対策はしているつもりだが、自分が書いた手紙が親や妹に見られるのは恥ずかしい。だから、見つからない場所にしているのだろう。
この手紙も本のページの間に挟まっていた。
『未来への手紙』は溜まっていったため箱に入れて保存している。

これで何通目なんだろう。そう思いながら箱を漁る。
それにしても『10年後の私へ』なんて書かなくても、明日記憶がなくなるかもしれないのに、おかしな手紙だなぁと思った。
10年後の私から届いた手紙を見つけたこと、日記に書いておくか。なんて思いながら今日も日記を開いた。

2/15/2023, 11:57:00 AM