星野 エナガ

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ニャァ。
オレのバイト帰りはいつも夕日が見える時間だ。そしていつも黒猫が通る。その猫はオレを見つけるとニャァっと鳴き、ゴロゴロと喉を鳴らし、オレに近づいて来る。オレはその猫を撫でる。それがオレのルーティンだ。黒猫と戯れ、家に帰る。
オレはただのしがないコンビニのバイト店員だ。ここのコンビニにはあの子がいる。長い黒髪で、目は綺麗。まさに大和撫子なので、勝手にナデシコさんと呼んでいる。ナデシコさんが視界に入ると、やる気が湧き上がってくる。美人さんだからだ。
オレは今日、仕事が長引き、帰りが遅かった。きっと、あの猫が寂しがっていると思い、急いだ。そうしたっけ、車が通った。ゴトンッと音がしていた。引かれたのはナデシコさんだ。近くにあの黒猫がいる。ナデシコさんは病院に運ばれ死亡を確認された。即死であった。それでもオレの毎日は変わらない。ただ、あの日は夕日が沈んでいた。それしか、違いはないのだ。

『沈む夕日』より

4/7/2023, 11:48:35 AM