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開けないLINE


今日は結婚記念日。

年に1度、夫婦揃って着飾り出掛ける日。
肩出しのダークグリーンのワンピースに少しクリームがかったパールのイヤリング。
滅多に出番のない7センチヒールの足元がおぼつかないのはご愛嬌。

毎年この日に来ている、ホテルの最上階のレストラン。
案内された席に着くと、初めて来た日のことを思い出す。2人とも緊張し過ぎて、何を頼んだか、何を話したか全然覚えていなかった。

今、ワインは彼に任せ、私は前菜が並べられるのを見ている。グラスにワインが注がれ、改めて「乾杯」。

普段はお互い忙しく、会話もままならない私達だけど今日だけは特別。

出会った時の印象や、片道5時間かけて行った海沿いの温泉宿。お湯に浸かる前にすでにバテバテだったこととか、結納の日の前日、酔っ払いに絡まれたとかで顔にかすり傷を付けてやって来た時は驚いた、とか。
子供がお腹にいた頃のこと、出産のエピソードなど、ひとしきり話して笑って、気づけば最後のデザート。

「ほんとにありがとう、私達出会えてよかった」
微笑み返すあなた。

最後のコーヒーを飲んで席を立つ2人。

「行こうか」
「そうね」

涼しい夜風の吹く街を歩き、別れを記した一通の封筒を持って届け出た。

「元気で」
「あなたもね」

振り向くことはない。LINEも閉じた。

悲しいわけじゃない、ただ説明のつかない涙が止まらなかった。

今日だけ泣こう、私。
頑張ったね、私。


end

9/1/2024, 11:11:27 AM