冬になったら
冬になったら——。
楽しそうに話していた彼女は、もういない。
ありふれた病だった。病床に伏せ弱りゆく君は、それでも僕に「やりたいことリスト」を書いて聞かせてくれた。退院したら、どれだけ時間がかかっても、必ず叶えようと僕らは約束した。
まずは家に帰ったら。
次の休日は。
その次は。
春になったら。
夏になったら。
秋になったら。
冬になったら。
結局、何一つ叶えられないまま、君は眠ってしまった。僕と、二人の約束を残して。
君がいなくなって八日目の夜。
僕は君が書いた「やりたい事リスト」を開いた。彼女の願いを、一人ででも叶えてやろうと思ったのだ。
まずは家に帰ったら、あるだけのお菓子とお酒を並べて乾杯をしたい。
家にはお菓子やお酒はおろか、食べ物なんてほとんど何もなかった。そういえば一週間以上買い物にも行っていない。
次の休日、その次は、は今度の週末に、僕はページを一枚ずつ捲っていく。
冬になったら、二人でイルミネーションを見たい。
財布と鍵をポケットに入れてコートを羽織り外へ出る。時刻は午後十時過ぎ。まだきっと間に合うはずだ。僕は駅へと走って、二人分の切符を買って、約束の場所へ向かう。いくつかの止まりを繰り返し、電車を降りて改札を抜けたらすぐに、大きなクリスマスツリーが飾られていた。街路樹にも煌びやかな装飾が施され、背の高い建物に囲まれた夜空を照らしていた。
と、全ての灯りがふっと消えた。
もっと早くに来られたらよかったと、
「今年の冬は、寒いな」
僕はただ君がいないことを寂しく思う。
11/17/2023, 2:25:39 PM