夏野

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【⠀「ごめんね」⠀】

罪悪感が少しあるけど、とにかく階段をダッシュで登る。間に合わなくなっちゃうから、と。

そこが廃ビルなのは知っていた。
ガラの悪い人たちが入り込んだりしてるし、倒壊の危険があるらしい。
それなのに権利の問題なのかお金の問題なのか、撤去されずに放置されている。ついでに最初は鍵が掛かっていたが、誰かが開けてしまい、今は常に開けっ放し状態である。
自殺の名所のようになってしまっていた。
月二回もあればもう十分頻繁だろうと思う。

屋上に着く頃には心臓バクバクで、息が荒い。廃ビルだからもちろんエレベーターなんて動いてないのだ。
12階の屋上まで全力で階段を駆け上った私は頑張った。
そして屋上のドアを勢いよく開けた。
というか、足がプルプルして、ドアにもたれ掛かるようにして開けたので物凄い勢いになった。

屋上にはひとり、いた。
屋上の端っこ、落ちそうなところに、いた。
夜で暗いし、わたし目悪いし、そこにいるのが男が女かも分からなかった。とりあえず、叫ぶ。

「はぁ、ハッ。、あの! すみません! 死ぬならわたしと一緒にいきませんか!?」
「……、は?」

少し間を置いて、一言帰ってきた。声が低い。男の人だ


「……それは、一緒に死にたいってこと?」
「あ、え?いやいや、違います!生きるって方です!死ぬの辞めて、その、生きるのが嫌で辛くて自殺を選んだか分からないですけど、わたしの、そばに、居て欲しいなーって、思って、」

ひとりは寂しい。誰かと一緒に居たいのに、ヘタレて誰にも頼れも、甘えも出来ない。わたしが唯一、甘えられた人は「ごめんね」というメッセージの後に自殺してしまった。
自殺を選ぶくらい、辛いとか苦しいとかは誰か人が傍にいれば生きれると、わたしは思う。
……。勢いで言ってしまったが、突然見知らぬ女に言われても、困るかも。

「わたし、何言ってるんでしょう?ごめんなさい、すみません!変なこと……」

頭を抱えてると、「あんた、そんなこと言って俺が犯罪者だったらどうすんの?」と近くから声がしてびっくりした。
男が落ちそうな端っこに立つのは止めたらしい。

「犯罪者なんですか?」
「……違うけど。あんた、俺の自殺止めた責任とってもらうからな」

こんなわたしでも、人を救えることもあるんだ。
とても嬉しくなって、「もちろんです。わたしと一緒に生きましょう」と男に抱きついた。

5/30/2024, 1:33:23 AM