Seaside cafe with cloudy sky

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【たそがれ】

◀◀【通り雨】からの続きです◀◀

⚠⚠ BL警告、BL警告。誤讀危機囘避ノタメ、各〻自己判斷ニテ下記本文すくろーるヲ願フ。以上、警告終ハリ。 ⚠⚠




















「ということはアラン、あなたと我々ヴィルケ家との縁は、二年前のエルンストとの出会いからすでにはじまっていたわけですな。いや、実に素晴らしい!」
なあエル、と同意を求めながら社長は赤くなって押し黙っている息子のそばへ寄り添い立ち、彼のひよこ頭をワシワシと愛情たっぷりに撫でた。パンクっぽいベリーショートの髪が容赦なくクシャクシャにされるが、エルンストはまんざらでもないようで、そうだね父さん、と相槌を打って先ほどまでのばつの悪い思いを消して父親とのどかに笑い合った。―― 可愛い親子だ ―― 微笑ましい光景に頬を緩ませて見ていると、「じゃ、最後は俺で締めるか」とアランの前にギュンターが握手の手をヌッと差し出してきた。顔を向けると赤毛特有の鮮やかな色、マスカットのような双眸が楽しげに見返していた。
「ギュンター・ヴィルケ、兄二人とは歳の離れた三人兄弟の末っ子だよ。エルとの方が歳が近いんだ。多分あんたとはもっと近いんじゃない?同年代かもな、ってことでよろしく」
なるほど道理で―― エルンストの叔父にしては声や見た目が若いと思った。それに兄弟と言っても、うえの二人はよく似ているのに彼は少し毛色が違っているような……まあ家族事情というものがある、深く穿鑿することはやめて笑顔でアランはギュンターと握手した。
「こちらこそよろしく、ここへ来る前にあなたがデザインされたという事務所を拝見しました。都会風でとても洒落ていますね、自然光を多用されているところや大胆な空間使いが絶妙で心を打たれました。素晴らしいの一言です。素敵な感性をお持ちだ」
なんの虚飾もせず思ったことを素直に告げると、相手も素直な、はち切れんばかりの喜色を満面に、および身体中で表し、歓喜の叫びを短く上げると握手したまま空いている方の手を広げるや、唐突に握っている手をグイと引き寄せてちからいっぱいアランをハグした。
「嬉しいこと言ってくれる!!気に入ったぜアラン!」
そう言って遠慮なくバンバン背を叩かれた。喜怒哀楽の感情表現が激しい、これも赤毛特有の性質か。エルンストとはまた違う情熱的な人物だ。早々に解放されると気付かれぬようにホッとし、笑顔も引き吊ってしまわぬよう気をやって身体を離した。
「ギュンター!我が社の恩人に対してなんたる無礼な!申し訳ないアラン、ガサツで馴れ馴れしい愚弟ですが、決して悪気があってしでかすような奴ではないのです。どうかお許しを」
社長の叱責が飛んで大目玉を食らっても赤毛の末っ子はどこ吹く風で平然と肩をすくめてみせる。ゲーアハルトは済まなそうな笑みでアランに視線で詫び、エルンストは血の気が引いた怖い顔でなんだか金縛りにあっているようだった。まあ愛嬌があって憎めないキャラクターではある、若干ずれてしまった眼鏡の位置を直しながらアランは笑って執り成した。
「社長……いえレオ、僕はもうお身内同然なのでしょう?謝罪なんて水くさいですよ。こんなのは身内同士のじゃれ合いみたいなもの、お気になさらず」
さわやかにそう告げると社長は心の底から安堵して感じ入ったようにうなづき、
「 ―― そう仰せであれば……まことにかたじけない、アラン。 ―― ギュン、ああ言って下さったが、少しはつつしむように!」
アランへ恭しく礼を述べてからギュンターへ向きを変えて厳しく申し渡す。御意、社長!と胸に手を当ておどけて畏まる末弟と長兄との即興コメディーが一段落した途端、いきなりサイレンの轟音があたりをつんざき長々と鳴り響いた。出し抜けなけたたましい音にアランは思わず首をすくめ、終業サイレンかな?と何気なく窓の方を見遣ると、たそがれの最後のひとときを告げる淡い夕焼けの色と、降りてきた宵のとばりの霞んだ藍色が幻想的なグラデーションを空に織り成していた。

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

10/1/2024, 10:03:34 AM