狼星

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テーマ:それでいい #143

それでいいんだって思ったんだ。
僕は僕のまま、君の中にいてもいいんだって。

私は気がつくと一人じゃなかった。
私の中にはカゲロウという、私ではない人格者がいた。
カゲロウは、滅多に私と話すことはなかった。
中学の時、孤独を感じるまでは。

『僕はね、君の中にいるんだ』
カゲロウは私に言った。いや、言ったというか、脳に直接語りかけているというか……。
『君が望まないと言うなら、またいつものように息を潜めているけど、孤独の時間が必要なときだってあるし』
その時の私は、孤独の時間が怖かった。
自分が自分で制御できなくなってしまうような気がして。私は気がつくと声が出ていた。
「行かないで」
と。カゲロウは私に話をした。
それはカゲロウについてだった。嘘か本当かは知らないが、私は前世でカゲロウと一緒に旅をしていたらしい。カゲロウは、前世の私に行ったらしい。
後世でも一緒にいたい…と。
カゲロウは前世の記憶をもったまま、私の前に現れた。
幼い私には、カゲロウといた時間をすべて忘れていた。今だってそうだった。
カゲロウは少しの間、私の中で生き続けることにした。
息を潜めて、いつか気がついてくる日が来るのではないかと。でも、待ち望んでいた日は来なかった。
今、この時話しかけていなかったら、まだ認識すらされていなかっただろうとカゲロウは言った。
「カゲロウは、私の中にいて嫌じゃないの?」
私は話し終わったカゲロウに聞く。
『嫌なわけないさ、愛していた人の中にいるのだから。今だってそうだ。今だって愛しているよ、君のことを』
カゲロウの姿は私に見えるものじゃない。前世の記憶だって無い。でも、私の中でカゲロウが微笑んだ気がした。
「カゲロウが嫌じゃないなら、私の中にいてほしい。嫌じゃないなら、話をしてほしい。今の私は、孤独の時間が怖いの」
そう口にして、ハッとした。
ずっと私に気が付かれなかったカゲロウはずっと寂しい思いをしていたのではないか、と。
カゲロウは私の思考を読むように言った。
『寂しくなんてなかったさ。いつも近くにいたんだから。でも、本当にいいのかい? 僕のこと気味が悪いだろう? 姿だって見えないし、僕が本当のことを言っているかもわからないのに』
カゲロウは私の答えに戸惑っていた。
そんな人が嘘をつくとは思えなかった。だから私は
「えぇ、もちろん。それでいいの。前世のことを思い出せなくてごめんなさい」
そういった。目の前にいるわけじゃないのに頭を下げた。あたかもカゲロウがいるかのように。
『ありがとう。こんな僕を受け入れてくれて』
カゲロウはそう言った。

それからカゲロウと過ごした日々は長く続いた。
『ねぇ、僕ってこのままでいいの?』
カゲロウは私に聞いた。何を今更、とは思ったがカゲロウに取っては深刻な問題らしい。だから私はあの時言ったように、言った。
「えぇ、もちろん。それでいいの」

4/4/2023, 1:29:52 PM