ぺんぎん

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わたしは帰路につく。腕は軽いが頭が重く、鈍く痛い。どうしてこう、今日に限って、わたしを迎え入れる空は曇天なのだろう。今日はたしか星座占いは3位だった。逆らってもいいラッキーアイテムをなんとなく鵜呑みにして若葉色のハンカチを一心に探した。遅刻した。
1位はシンプルに喜べるし、2位は惜しいって思えるじゃん。でも3位って微妙だね。てか、何にも言えない。
そんなことをいつか、クラスメイトが言っていたことがあったと思った。机としての役割を果たすはずの机に跨って椅子にしていた子だった。ああそう、そうだ。わたしの今日の運気は極端でない。だから、天気予報であれほど言っていたのにもかかわらず傘を忘れ、靴下が色違いだったことはばれなかった。

ふと、雲の蠢きをたしかめる為だけに空を仰ぐと、あげた頬に直接、雨の感触がした。ひとつぶだけ、一方的に冷たい降りはじめの雨。
さて、これはしとしとと弱く降り続くタイプか、はたまた、ざあざあとコンクリートを洗うような一定時間内の雨か。秒速ジャッジタイム。家までもうすぐだから、強力洗浄タイプはまっぴらごめん、そんなことを脳内で考えてみる。がしかし、雨は降らない。さすが3位だ。無駄なことに頭を働かせた反面、ずぶ濡れは回避できるっていう、まったく期待はずれな日だ、少しだけ音のずれた友人のカラオケを聴いているような気分だ。

呆れたように吐き出した息は白く、透明に近しい。わたしの息程度ではここら一帯は暖まらずに、それどころか、曇天に曇天が相まって、空気がどっと冷えていく。影が薄くなる。ただ朗報、手袋を取り出そうと鞄を漁っていると、ひと粒頭痛薬が見つかる。勢いと溜めた唾でこくんと喉を上下して飲む、多少の気休めにはなるだろうと思う。

シックな色合いの手袋はわたしの最近の宝物だ。温もりがよく手に馴染む。嬉しくなってはふわふわのついた指先をぱっぱと胸の中でひらく。こうやって無邪気に子供みたいにはしゃぐのは、人間みな定期的にしていい事だと、そう思う。占いを鵜呑みにして空回りし、迷信じみた順位で一日を自分で振りまわす日があってもいいと。たしかに。

気休め程度の頭痛薬が効いてきたらしい、痛みがすっきりとなくなった。ぽつぽつとつむじの間に雨が差し込まれる。結局降るんじゃないか。急かされるようにして鍵を握りしめる。そこに掛けられたキーホルダーの揺れ、擦れるときの金属音と、昨夜の水溜まりを車が跳ねる音が、よく映えるとそんなことを思い、その混同に胸を温めている。背中を押される。つられて前足、右腕、それから背筋をぴん。わたしは重たいドアをひらく。

2/1/2023, 4:21:13 PM