オーギュとこの森の家でいっしょに暮らすようになって数年が過ぎた。
出会ったときのひどい火傷はもう跡形もなく治っているけれど、オーギュはもっとずっと深い傷を内に秘めていた。
そのことはオーギュには言葉にすることすらできないようだった。
身に降りかかった凄惨な出来事――そのおぞましい記憶――そういったものがオーギュの心身を蝕み苦しめていることに、私は初めから気づいていた。
それがどんなものであれ、私はオーギュの負った深い傷を癒していくつもりだった。
けれど、私が得意な癒しの魔法も強力な薬草も、オーギュの深い傷の前には全くの無力だった。
あの場所に閉じ込められていたときどんなことがあったか、闇魔術の使い手たちにどれほどの仕打ちを受けていたのか、オーギュが言葉を紡げるようになった今ならわかる。
けれども、それらを知った今でもオーギュが受けた傷の癒し方はわからない。
オーギュをぼろぼろに傷つけ壊した者たちにどんなに怒りを燃やしたところで、オーギュの傷を癒やすには何の役にも立たない。
私ができるのはただ、いつもオーギュのそばにいて寄り添い見守り支えていくことだけだった。
今夜もオーギュを腕に抱いて眠る。
明日もまた、オーギュは悪夢にうなされて目を覚ますのだろうか。
大切な人の悪夢一つ止められない。
魔法というのはなんと無力なものなのだろうか……。
(フリートフェザーストーリー いつかのできごと篇 #4 : お題「やるせない気持ち」)
8/24/2024, 5:11:46 PM