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冬の夕暮れ、沈みゆく夕日を背景に、繋いだ指に力が入るのが分かった。マフラーで補えない真っ白な頬に、木枯らしが当たって冷えるのが分かった。
僅かに、身体が近付いた。

「…寒いね、耐えられない。」
『うん、寒いね。』

ありきたりな会話だった。橋の上を歩く2人に、周囲の冷たい視線が突き刺さるようで、俺は俯くしかなかった。

この時間が、永遠に続けばいいのにと思った。

「明日は雪が降るらしいよ、暖かくしなきゃ。」

君が言う。手のひらが離れて、指が絡まり合い、また手のひら同士が触れ合った。雪の訪れを、感じさせてくれた。

「明日が来なくてさ、明後日は普通にやってきて、そのまた次はまた来なくて。」

『…うん。』

「で、1000年後の今日はまた来るんだよ。」

伏せられた睫毛が、ふと上を向いてこちらを覗く。君が言いたい全てを察することはできないけれど、その感情は少しだけ、分かる気がした。

『大丈夫だよ、俺はずっと傍にいるからさ。』

シン、と沈んだ世界に、君の瞳が潤んだ気がした。信号待ちの横断歩道を、大型トラックが前を横切る。

きゅ、と繋いだ指に、力が入った。

2/3/2024, 2:25:12 PM