絢辻 夕陽

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私はある場所を目指していた。
その目的地の立て看板にはこう書いてあった。

「注意 この先、落下道」

思えば私の人生は色々あった。
家族には迷惑かけてばかりだったし、
会社にも迷惑をかけていた。
同僚達からは陰口を叩かれ、
果てには家族からも避けられていた。

こんな人生ならと思い、探したどり着いたのが
この「落下道」だった。

落下道は文字通り、
道の先は切り立った崖になっている。

私は過去の出来事や思い出を頭の中で整理しながらその先端へ向かった。
先端から下を覗いた時には全く見えず私は急に心細くなった。

私は意を決して飛び込んだ。

人生、色々あったなぁ。
そんな事を考えながら落下し続けた。

数分後

「喉渇いたなぁ、まだ下には辿り着かないのだろうか。あっ、なんか降ってきた。これオレンジジュースじゃないか。折角だから美味しくいただこう。」

数時間後

「まだ下が見えないな。どうなってるんだここは。」

数年後

周りには色んな人や物が降っている状態になった。
気づいたら顔見知りもできた。

「やぁ、こんにちは。あなたはここに落ち続けて何年ですか?」
「私は多分五年位ですかね?ここは色々降ってきて最早快適な環境ですよ。」

そして更に数年後

「おやっ?やっと下が見えてきたぞ?」
やっと地上らしき光景が見えてきた、
がどうもその地面はやたら白いのである。
何だこれは。

いざ着地。

私は着地の瞬間思わず目を瞑った。
が、どうやら生きているらしい。
というか何だこの感触はまるでベッドのふっかふかのマットではないか。

その感触に私は思わず「ここから離れたくない」
と思ってしまった。
現実という地獄からこのままずっと離れていたい。

いつまでそのマットに埋まっていたのか、起き上がるとその先に立て看板がある事に気がついた。
そして、その立て看板にはこう書いてあった。

「人生の登り道」

私の人生は終わりなんかじゃなかった。
まだ始まってすらなかったんだ。
これからの人生はずっと落ち続けた分だけ登り道が続くのか。たとえその道が急であったとしてもその分好調が続くというのか。
私は意を決してその道を登り続ける事に決めたのだった。

「落下道」

6/18/2024, 10:57:08 AM