「"幸せとは"……」
駅前のポスターにあった一言が目について、私は思わず脚を止めてしまった。
こんな、異国で戦争が起こってるようなご時世、帰る場所があって食べ物にも困らず温かくて安心できる場所で眠れる事、なんて一瞬考えてしまったけど、それだけで本当の幸せと言えるのか。立ち止まったままその言葉を、じい、と見つめてしまう。
(ほんとうの幸い…)
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』はそれをどこまでも探し求める物語だったか。答えは――――結局自己犠牲ではなくて明確なところは示されない話ということだったと思った。大学の授業ではそんなような結論だった。確か。
(幸せ…)
そんな御大層な"ほんとうの幸い"じゃなくて、自分のことで考えてみると、友達ももっと欲しいしもっとお給料も欲しいし上司にも恵まれたいしで際限なく欲しい物が増えてゆく事に苦笑いがこみ上げてくる。
私はまた駅前の雑踏の中を歩き始めた。
とりあえず、家庭、仕事場、趣味の場所。どこかに居場所があることは恵まれている、とは思いながら。
1/4/2023, 2:00:14 PM