狼星

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テーマ:大切なもの #141

僕には大切な友達がいた。
その子はいつも、僕が入院する病院に通ってくれていた。いつも、お見舞いに来る。
友達と外で遊べばいいのに。
家でゲームをすればいいのに。
そう言うと彼は決まってこう言う。
「お前と一緒にいたほうが、何をするより楽しいんだよ」
その言葉を聞く度、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが混ざり合う。
僕の病気はもう治らないらしい。
身体がどんどん僕の体を蝕んでいて、どうにもならないことを僕は知っている。
親はほとんど僕の様子を見に来ない。
弟や妹がまだ小さくて、僕よりも面倒を見なければならないからだ。
そんな僕のことを彼はいつも励ましてくれる。
彼が来るまでは、いつも外を眺めている。
いつもなら静かな病室。今日は違った。

『お前はもうすぐ○ぬぞ』
黒い服を着た、骸骨のお面を被った背の高い人がいった。いや、人じゃない。浮いている。
「誰?」
僕は音もなく入ってきたソレに言う。
『我は、死神』
「死神……か」
普通に見えていた。透けていたりもしなかった。
普通の人間みたいだった。
「何しに来た?」
『予知。と、お前の最後の望み、聞きに来た』
「『最後の望み』?」
『そうだ』
死神は釜を振って、人間の肉体と魂を切り離すのだと思っていた。『最後の望み』なんて聞いたことない。
『最後の望み。人の人生を左右するものはできぬがな』
死神は言った。
「僕は、そんなにすぐに○ぬの?」
僕はそう聞くと、死神は少し間をおき頷いた。
そっか、僕は死ぬのか。
僕は意外と冷静を保っていた。涙も出なかった。それはその日が近いと、なんとなく分かっていたからだろうか。
「すぐに答えを出さないとだめ?」
『否。お前の命が尽きるまで』
死神はそう言うとドアの方に目を向ける。
『客だ。ここは一度、退散する。願いは強く願えば我に届く』
そう言うと、消えた。

そこに入れ違いに来たのは、彼だった。
「僕、死神が見える」
そう言うと困惑した表情で僕を見る彼。カレンダーを見るとエイプリルフールだったから、冗談ということにした。でも彼は、僕が冗談じゃないってわかっていたんじゃないかな。
僕にとって大切なものは……いや、大切な人は。

彼が去った病室はいつも異常に寒くて、異様なほどに暗かった。僕は目を閉じた。
そこには闇が広がっていた。
『最後の望み、聞きに来た』
どこからかそんな声が聞こえた。姿は見えない。
声が出ない。そんなとき、強く願えば我に届く。という言葉を思い出した。
僕の願いは……。

届いたのか、今では全くわからない。
ただ、あの死神のことだからうまくやってくれそうな気がする。
『大切な友達がうまく周りに馴染めるように。そして、僕との大切な記憶を忘れないでほしい』と。

4/2/2023, 12:17:49 PM